空白の彼女

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けれどその度に俺は静香の気持ちを踏みにじりないがしろにしてきた。それは変えようがない事実である。でも、1つその事実に対して言い訳をするならば…… 「高端も少し早めに知っているだろう?あの時の俺が女性に対してどんな目にあわされたかを。」 そう。俺は決して静香の気持ちだけをないがしろにしていたわけではない。自分と深く関わろうとする女性全てに同じような態度をしてきたのだ。 「そうは言っても過去は過去、現在は現在…よ。もともと私はあなたの姿ばかり追いかける静香の気持ちには反対していたの。それが奏が現れて、最初は胡散臭くてあまり好きではなかったけれど静香の止まった時間を動かしてくれたわ。 そうしてようやく完全に忘れて自由になってくれると思ったのに……今更あの子の気持ちをかき乱すような真似はしないで!!」 高端が声を荒げ驚いた周りの人が一斉にこちらへ視線を向けるが彼女はそれすら気にならないようだった。 高端が言うことはもっともだ。けれど、 「それでも俺はもう一度静香と話をするまで諦める気はないよ。」 真っ直ぐに高端を見つめる。しばらくにらみ合ったのち、高端が大きくため息をついて席に着いた。 「・・・わかったわ、ほんの少しだけ協力してあげる。でも連絡先は教えてあげられない。私は今でも静香に相応しいのは奏だとおもっているからね。だから…そうね、あなたが知らない静香のことを教えてあげましょう。」 そう言って高端は温くなったミルクティーを一気に飲み干した。 「場所を変えましょうか。ここでは人目が多すぎるわ。」 「わかった。」 2人で喫茶店をでてタクシーに乗り込む。 10分ほど経ってたどり着いたのはぱっと見一軒家のようなお店だった。 「よく仕事で使う場所なの。マスターとも顔馴染みだし個室もあるからここでいいでしょう。」 高端はそういうと小さなベルのついた引き戸を開けて中へ入って行く。同じようにして後に続けば中は思っていたより広くて居心地の良さそうな空間が広がっていた。 「マスター、奥の部屋の中貸してね。」 「いらっしゃい。この時間はお客さんの数もそう多くないからゆっくりしていきな。お連れさんも一緒にね。」 眼鏡をかけた優しそうな初老の男性は優しく微笑み初対面の俺にも丁寧に接してくれた。
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