side girls

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4年前、高校を卒業した頃から崩れていた両親との関係が20歳を過ぎてから完全に破綻してしまい私は普通に生活することすら出来なくなってしまった。何だかんだ甘えて実家暮らしをしていたけれどこれ以上家族と一緒にいれば精神が完全に壊れてしまうと判断した親戚によって私は家族に内緒で生まれ故郷を離れて東京へやってきた。 金銭面はもちろん一切の支援がない状態で慣れない場所での生活は最初こそ体調を多々崩し、なかなか仕事が決まらずにいた。 働かなければ生活は出来ない。 けれど仕事も出来ない…。 悩んだ私は夜の世界に足を踏み入れるしかなかった。 慣れない、強くないお酒を飲んでは吐きを繰り返して過ごす事数ヶ月。ようやく夜の生活が慣れて来た頃に偶然か必然か……奏と出会った。 夜はガールズバーで仕事。数時間の休息と睡眠を得て昼間は派遣でイベントやライブなどのスタッフの仕事をしていた。その日はテレビ局で行われる年に一度、多くのアーティストが音楽の祭典として集まる生放送の音楽番組だった。芸能関係の仕事といえど末端の末端でこの日のためにとても高い倍率をくぐり抜けてスタジオ観戦することができるお客さんみたいに間近で芸能人を見る、なんてことはなく。 スタジオの入場規制スタッフとして生放送終わりにそれぞれ帰路に着くお客さんの出入りを見送っていたときに事件が起きた。 スタジオから出て行く誰かとすれ違いざまにぶつかってしまった。慌てて振り返り謝罪をしようと勢いよく頭を下げたところで連日の疲れが出てしまったのか私はそのまま倒れるようにして意識を失った。 *** 気がつくとどこか知らない楽屋の座布団の上で眠っていた。体にはその楽屋の主のものと思われるネイビーのジャケットがかけられていてゆっくりと体を起こしながら部屋の中を見渡すとソファに挟まれたローテーブルの上に自分のカバンらしきものを見つけた。部屋の中は私以外誰の姿も無かった。まだ怠さの残る身体を無理やり動かしそっと中身を確認すればそれは間違いなく自分のものでどうしてこんな場所に置いてあるのか疑問に思う。 「あっ、目が覚めましたか。」 首を傾げていたら急に後ろから声をかけられてビクッとなる。恐る恐る振り返ればシルバーフレームの眼鏡をかけた優しそうな男性がペットボトルのお茶やお水を両手に抱えて楽屋の入り口に立っていた。 「驚かせてしまいましたか…、すみません急に声をかけてしまって。こんな事ならどうせまだ寝ているからと思わずにきちんとノックしてから入ればよかったですね。あ、これよかったらどうぞ~。」 驚いたのは私の方なのになぜかこっちが申し訳なくなるくらい激しく落ち込んだかと思ったら急にふわふわとした態度で持っていた飲み物を渡してくれた。くるくると変わる態度がどこか面白くて、親しみやすい人というのはこういう人のことを言うんだろうなーと思った。
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