side girls

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目の前を歩く奏に絶望しながら後ろをついて行く。あたしの心のうちなんで知らぬ存ぜぬといった様子で心なしかウキウキした様子の奏で話しかけてくる有様だ。 「キミ、柳田さんところの子でしょ?大丈夫大丈夫、先方には話してあるし君の本来予定されてた仕事はもう終わってるでしょ?さっきスタッフさんに聞いてきんだ〜」 「いえ、あ、確かに柳田さんが派遣会社の担当でそこからきていますが……ってそうじゃなくて!! まだ頼まれた仕事があるので無理です、離してください!!」 何が大丈夫なんだか全く意味がわからない。離してくれって言ってるのに離してくれないし、なんか何処かへ連れていかれるし、すれ違う他のスタッフさんからの目線が痛い!!だいたいこの人ちゃんと芸能人だよね?何でこんな一般のバイトスタッフにこんなに絡んでくるわけ?バカなの?奏って実はバカな人なの!? 心の中で考えたくありとあらゆる悪態をついてこの場からどうやって逃げようか考える。 「あぁぁ!!!!やーっと見つけましたよ、奏さん!!急に隣からいなくならないでくださいよ〜!」 どこかで聞いたことがあるような声が聞こえて振り返ると奏さんのマネージャーであるヤマさんが廊下を堂々と走りながらこちらに向かってきている。 「あ、バレた。そう言えばキミの名前は?」 奏さんもヤマさんに気づき一旦視線をそちらに向けたけどついで出てきた言葉はなんの脈力もなく、唐突に名前を尋ねられた。名乗っていいのかそもそもこんなキチガイ(仮)みたいな人には名乗らない方が身のためなんじゃないかと考えたけど分からずどもっているともう一度「なーまーえー!!」と言われる。 「富松……静香…。」 「うんうん静香ちゃんね!いいなまえじゃない!さて………逃げるか。」 「えっ?」 「あ、コラ!奏さん待ちなさいっ!!」 静香の聞き間違いでなければ奏は逃げるとか言ったような気が… 「ほら、行くよ!」 奏は再び強引に手を引いてスタジオの廊下を全速力で走った。小学生の頃、先生に廊下は走っちゃいけませんって教わらなかったのかな?でもこの調子じゃあ教わってたとしてもシカトするタイプだろうなぁ…… 呑気にそんなことを考えていたら足がもつれてしまいその場に転びそうになる。やばい! そう思ってこれからくる衝撃を耐えるためにギュッと目をつぶったけれどいくら待っても体に衝撃が来ることはない。 恐る恐る目を開けると間近で見るの顔がそこにあった。え、なんで? 「転んだら危ないでしょ。」 奏は静香が転ばないようにその体を自分の胸に押し付ける形で抱きとめていた。頭の中が完全にフリーズしている静香は今の状況をうまく飲み込めていない。 「・・・やっぱり静香ちゃんに声をかけて正解だったみたいだね。」 奏は意味不明な言葉を呟いてニヤリと笑い今度は静香を何かの荷物みたいに担ぐと無人のエレベーターに乗り込んでそのままスタジオから姿を消した。 後日、この追いかけっこはネットのエンタメニュースにこそ流れなかったがその日スタジオ内にいたスタッフが噂話をして広げてくれたおかげと次の日ふてくされた顔でヤマさんと一緒に謝罪させられている奏を見かけ、その後静香はこのスタジオに仕事へ来るたび謎の視線に悩まされることになったとかならなかったとか…
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