side girls

14/14

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
壁に背中が当たった感触がした。もうこれ以上は下がらない。でも、捕まりたく無い。 追い詰めたと思って更に距離を詰めてきた奏の手を今度は思いっきり叩いて玄関の方へと走る。この際携帯さえあればどうでもいい。置きっ放しのカバンを無視して家の外にようやく出られると思ったのに! 「ダメ、この状況で逃したら君はもう一生帰ってこなくなる。」 気づいたらすぐ後ろに奏がいて体に手を回されて優しいけれど決して逃げられないような力で抱きしめられた。 「い…や……、やだ…っ!嫌だっ!!離して!!!」 無理だと分かっていてもその手から逃れたくて混乱する頭のままひたすら奏の胸に手を当てて離そうとするのに全然離れられない。 嫌だ、怖い、離して、触らないで、怖い ボロボロと泣きながら奏を拒絶する言葉を吐き続けている私を奏は絶対に離さない。それどころか腕に更に力を込めて僅かな抵抗すら出来ないようにする。 「やめて…、怖い。やめて……」 何度も何度も繰り返し拒絶の言葉を口にするのに奏の腕の力は緩くなるどころか強くなる一方で訳が分からなくなる。 しばらく抱きしめられ、対抗することもやめてうわ言のように話すようになった頃、 「落ち着いた?」 優しくかけられるその言葉に先程感じたような恐怖は一切ないけれど返事を返すことはできない。 「ひとまず場所をうつそうか。移動するから俺の首に手を回して…そう。」 大人しく言われた通りに首に手を回すと奏は決して軽くは無いであろう私の体を楽々持ち上げてお姫様だっこの状態で寝室に連れていかれた。 いつも泊めてもらう時は頑なに拒否して寝室には入らずゲストルームで眠っていたので奏の寝室に入るのは初めてだ。 まだ陽が高いにもかかわらず遮光カーテンが閉められていて部屋は薄暗い。きっと仕事の都合上いつでも眠れるように普段からカーテンは閉めっぱなしなのだろう。 「よっ、……と…」 乱暴に足で布団をめくったかと思えば優しくその上に降ろされて寝かされる。ふかふかのベッドは触り心地の良い寝具で統一されているのもあり泣き腫らして重くなっていた瞼がより一層重くなる。 奏は分かっていたかのように毛布をかけて側に腰を下ろし 「怖くないから、大丈夫だから、目が覚めたら不安も何もかも消えているはずだから今はおやすみ。」 どこまでも優しいその声と言葉はまるで呪文のように私をそのまま眠りへと誘った。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加