怖い、嫌いの裏返し

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「奏(かなで)」 奏とおつきあいを始めても彼の仕事が忙しいことに変わりはなくて、でも今までよりももっと側で支えたいと言う奏の希望を叶えるために私は今も変わらずハウスキーパーの様な仕事をしていた。いつものように洗い物を終えて執筆の休憩にリビングへとやって来た奏に言われた一言がこれだ。 「奏(そう)が本名じゃないの?」 「うん。漢字は同じなんだけど読み方が違うんだ。奏(そう)はデビューするときに本名そのままで活動したくないっていう俺のわがまま聞いてくれたやまさんがつけてくれた名前。本名は 久遠 奏(くおん かなで)。珍しい名前だよね。」 くしゃっと笑ってコーヒーを一口飲むと奏(かなで)は私の手を引いて隣に座らせた。 「でもなんで急に本名を教えてくれたの?別に私は奏(そう)のままでもきにしなかったよ?」 「せっかく付き合うことになったのにいつまでも芸名で呼ばれてちゃなんかもやもやするんだよね。静香には隠し事とか一切しないでこれからずっと付き合っていきたいからさ。」 そう言って肩を寄せて来たかと思ったら不意打ちで?にキスをされー______…。 「って痛いなぁ。いーじゃんほっぺにキスくらい!付き合ってるんだし!減るもんじゃないし!!」 「減らなくてもあたしはあんまり甘~い雰囲気とか人前でなくてもイチャイチャするのが苦手なの!それに付き合うときにあんまりこういうことしないって言った!約束させた!」 奏(かなで)を思いっきり突き飛ばして携帯と財布を持って席を立つ。そのまま玄関の方へ向かうと慌てた様子で奏(かなで)が追いかけて来た。 「ちょ、ちょっと!そんな怒って出て行くことないじゃん…」 「普通に買い物に行くだけですから!奏(かなで)はついてこないで!!」 少しだけムッとしたまま玄関の扉を勢いよく閉めた。まだ何か奏(かなで)が言おうとしてたけど知るもんか! 特に何か買う用事があったわけじゃないけれどあの空間から出たかったので仕方ない。1人でも出歩けるようにと渡された合鍵を持ってくるのは忘れたけどまぁ帰る頃には気持ちも落ち着いてるだろう。 街へ1人で買い物に出かけるのは久しぶりな気がする。少しだけワクワクしながらマンションのエントランスをくぐった。
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