61人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
もっとよく見せてよと伊緒が言って隣の席に座りもう一度私の手を取るとガタンッ!と大きな音が響いた。伊緒はその音を気にすることなく指輪を眺めているけど私は気になってカフェの店内をキョロキョロと見回してしまう。
(あっ….)
通路とテーブル席を跨いだ向こうの席に座っている女性と目が合う。けれど相手はすぐに顔を晒していそいそと携帯に何かを打っていた。なるほど、そういうことか。
「ほら、いつまでも触ってないでくださいー。大切なものなのに伊緒に触らせてると壊しちゃうそうだよ。」
「流石に壊したりなんかしねーわ!んまぁでもそりゃそうだな、悪りぃ。」
なんとなく状況を察した私は手のひら返してさっさと向かいの席に戻るように伊緒を諭してから先ほどの女性がいる場所へそっと視線を向けると明らかにホッとしていた。
***
「じゃあ今日はありがとうな。また何かあったら連絡するわ!そんじゃーなー!」
ひらひらと手を振りながら去って行く伊緒の姿が見えなくなったことを確認してからもう一度先程のカフェに戻る。奥さんにはさっき伊緒がトイレに行っているときにまたすぐに戻る事を伝えて置いたから荷物もそのままだ。
カバンを手に取り迷いなく目的のテーブルに向かい挙動不審だった彼女に声をかける。
「で、こんなところでどうしたんですか?樋口さん。伊緒は気づいていなかったみたいだけど側から見たら結構バレバレな態度でしたよ?」
「・・・やっぱり気づかれちゃったのね。」
かけていた伊達メガネを外して恥ずかしげに視線を向けてきたのは伊緒と同じく元クラスメイトの樋口 香織 (ひぐち かおり)。あの同窓会で伊緒と一緒に司会をしていた学年でも一、二を争うくらいの美人さんだった子だ。
相変わらずその美貌は健在で腰まで伸ばされます髪の毛は緩く巻かれ、手はシンプルながら指先を綺麗に見せるようなネイルが施されている。
「久しぶり…って言うのが適正なのかわからないけど、なんかこうやってまともに話すのは多分初めてかもしれないわね。」
さっきの私みたいに視線を右往左往させながら言葉を紡ぐ彼女の態度はいろんな意味で分かりやすすぎて伊緒が彼女の存在に気づかなかったのが奇跡のようだ。
最初のコメントを投稿しよう!