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「ここにいたのは偶然なんですか?」
今度は私が聞き手になるべく樋口さんの向かいの席に座る。予期せぬ寄り道で予定よりも帰りが遅くなってしまうけど今日は奏(かなで)も帰りが遅くなるらしいから大丈夫だろう。
私の質問に樋口さんはゆるゆると首を振って小さく溜息を吐いた。
「こう言ったら、言い方はあまり良くないかもしれないけど、その…追いかけてきたのよ。伊緒の事…
それで、戸松さんとこのカフェに入って行くのが見えて…それで、あの……」
顔を真っ赤にしながら話してくれた内容をまとめると、樋口さんと伊緒は同じ会社に勤めていて2人とも同じ部署で働いている。伊緒が一緒にいた人を含め4人で出張に来ていて今日は束の間の休み。で、せっかく一緒の休みを伊緒と…なんて思っていたら何故か避けられ。追いかけて来たら私と再会する現場に遭遇したと…
めちゃくちゃ乙女だ…。
なんていう心の声はしっかりと口に出すことなく樋口さんを見つめる。
「伊緒とは偶然そこであって話をしてただけなの。勘違いさせてしまったならこちらこそごめんなさい…。」
「あ、謝るなんてそんな…私が勘違いしただけなので気にしないで!それにもともと伊緒からも避けられていたし…」
お互い謝ってばかりでなんだかおかしくなってくる。 もう少し彼女と話をと思って口を開こうとしたら着信を知らせる音が2人の間に鳴り響いた。
画面を見れば相手はもちろん奏(かなで)で間の悪さに小さくため息をついた。
「 あ、話に付き合わせてしまってごめんなさい。もし誰かとこの後用事があるなら私はこれで…」
私の表情を見て樋口さんはなにかを察したのかもしれない。帰るという彼女の言葉に申し訳なく思いながらも「気を使わせてごめんね、ありがとう。」と言って一旦電話に出た。
"もしもし、今どこにいるの?"
「偶然中学の同級生と会って今カフェで話ししてたところだよ。ちゃんと女の子だから安心してください。」
"束縛してるみたいに受け取ったならごめんな。家にいると思ってたのにいなかったから少し心配になってさ。雲行きが怪しくなってきたから迎えに行こうか?"
「折り畳み傘持ってきてるから大丈夫。これから帰るね。・・・うん、それじゃ。」
奏の"待ってる"という返事を聞いてから終話ボタンを押す。分かってることだけどやっぱりあの日以来奏は前にも増して心配症になってる気がする。
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