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たった数時間、ほんの数時間だけあいつに会っただけなのにムカつくくらい頭の中をあいつが支配する。奏もきっとそれに気づいてるから今までまったく束縛なんてしなかったのにわたしの行動を制限して人目に触れないようにしてくる。大々的に婚約発表したこともあるだろうけど…
(大丈夫…、あいつは地元で仕事してるって言ってたから地元に帰らない限りもう2度とあいつとは会うことも話すこともない。だから、絶対に大丈夫。)
「気持ちが高ぶったのは大好きだった人を思い出して懐かしくなってるだけ。」
両手で自分の頬を音がなるくらいの強さで叩いて降り出した雨の中、折りたたみ傘をさして歩く。
駅に着いたところで電車の時間を確認するために携帯を開いたら奏からメールが届いていた。最寄り駅までは心配だから迎えに来てくれると書いてある。送られてきた時間を考えてももう家を出ているだろうから最寄り駅に着く時間だけ返事を返してもう一度携帯をカバンにしまう。
改札を通ってホームへ向かうために歩き出したら突然誰かに腕を掴まれる。
「な…んで……」
この時、振り返らずに済んだならどれだけ良かっただろうか。
「今度は勝手に帰るなよ?」
なんで…
「・・・・・・っ!」
掴まれた手首を思い切り振りかぶって無理やり解いて帰宅ラッシュでごった返す人混みの中を縫うようして全力で走った。
こんな都会のど真ん中で修羅場みたいな事を起こしたら今の時代ネットですぐにばら撒かれる。奏の為にも絶対にそんな事になるわけにはいかないし、バレたら奏を傷つける事になる。
人混みに紛れて仕舞えば見つからないはず。そう思いちょうど駅に着いた電車に行き先も確認せずに飛び込んだ。後から人波が押し寄せてきて潰されそうになる。
苦しい…、けどこれなら必ず逃げ切れる!
奏には適当な理由をつけて降りた駅まで迎えにきて貰えばいい。
身をよじって奏に連絡する為に携帯を取り出したところで電車が大きく揺れた。後ろから人がぶつかってきてよろけてしまいポールに頭をぶつけそうになる。だけど、不意に伸びてきた誰かの手によって無事に事なきを得る。お礼を言う為に後ろを見ればその相手は今さっき逃げ切ったと思ったはずのあいつで、もうこれ以上は無理だと悟った。
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