怖い、嫌いの裏返し

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観念した静香の手を引いて適当に降りた駅からさらにタクシーに乗る。車内の中で静香が奏に連絡を入れたいと言ったけれど 「婚約者に無駄な心配かけたいならどうぞ。 あ、ちなみに俺はもう宣戦布告されてるから気にしないよ?」 なんて言われればなにも言い返せないので仕方なく窓の外に視線を逸らす。 「運転手さんそこの角、右でお願いします。曲がって少し進むとコンビニが見えると思うのでそこで降ろしてください。」 不貞腐れる静香を横目に秀哉は目的地に着くとちゃっちゃと支払いを済ませてもう一度静香の手を引いてタクシーを降りる。 「ねぇ、仕方なく着いてきたけどどこに向かってるの?もう逃げないから行き先くらい教えてくれたって良くない?」 「だめ。行ったら静香の性格的に絶対に逃げるから教えません。」 「あたしのなにを知ってるって言うのさ…」 「そりゃあ一夜を共にした中ですからどこが感じるとかほくろの数は幾つだとか色々知ってますよ?」 「んなっ!?」 急に馬鹿な事を言いだすから子供の頃の癖でつい手が出る足が出る。不意打ちを狙って殴ろうとしたのに軽々と避けられてしまう。 「もう、竹松はいつもそうやって軽々と避ける!」 「当たったら痛いから避けてるのに避けたら怒られるの?」 ケラケラと笑い声をあげてまた手を引かれて歩き出す。さっきみたいな一方的に引かれる感じじゃなくて今度はちゃんと手のひらを合わせた繋ぎ方で。 「結局どこに行くのよ?」 「さて、なんのことだか?」 のらりくらりと話の流れを切られてばかりでこいつは私を追いかけてきたはずなのになんでこんなに… そこまで考えてハッとする。 突然立ち止まった私を不思議に思いほんの少しだけ前を歩いていた竹松も足を止め振り返る。 「・・・何考えるのか知らないけどもうすぐ目的地だから話はそこで聞くよ。ほら、歩いて。自分で歩かないならお姫様抱っこするぞ?」 こんな誰が見てるかもしれない場所でそんな羞恥を晒すわけにもいかず大人しく竹松の後ろをついて歩く。 ほんの数秒前まで楽しく話せていたのにまた2人の間に重い空気が流れる。五分ほど歩いてから「着いたぞ」という声を聞いて顔を上げる。
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