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「ここは…」
「 Ta fleur 。あの日、同窓会があったホテルあんじゃん?あそこの系列店で今俺が暮らしてるところ。」
そう言って竹松はまた私の手を引いて目の前にあるホテルに入っていく。
「え、ちょっ、なんでっ……」
「ここじゃないと話せないから。目立ちたくないなら大人しくとなりに立ってて。」
フロントの優しそうなスタッフに声をかけてルームキーを受け取りエレベーターに乗ればあの時と同様もう逃げられない気がした。
カードキーを差し込んで鍵を開けるなり竹松は私を突き飛ばすようにして乱暴に部屋へ入れた。なんとか転ばずに態勢を立て直して顔を上げれば目の前に広がるのはキラキラと輝くまるで夜空みたいな夜景。
「あいつみたいなスイートルームなんて大層な部屋には泊まらせてやれないけどこの部屋から見る夜景は綺麗だろ?静香と見たくてここに連れてきたんだ。」
肩に竹松の手が触れた。見計らったようなタイミングでカバンの中で着信を告げる音楽が鳴り響く。だけど、止めることも出ることも叶わない。
「なんで…今なの?」
「うん。」
「あたし、婚約してるんだよ?」
「……うん。」
「なんでっ、……あたしも明日が結婚するのに、なんで今なの?どうして!?何度も何度も貴方を忘れようとして、でも忘れられなくて、他の誰かと一緒にいてもいつも貴方があたしの頭の中を支配してて!でも奏に出会えて、やっと…やっと竹松のことを忘れて幸せになれると思ったのに、なんで今さら好きだなんて返してくるのよ!!」
電話の相手はきっと奏だろう。本来ならばもうとっくに家に帰っていた時間だ。いつまでも連絡を返さない私を心配しているに違いない。
早く、早くここから出して。
苦しくて息が出来ないの
もがき疲れて沈んでしまいそうなの
「奏……っ!」
「 もう一度静かなその声でその名前を俺の前で呼んだら、」
そこまで言って唇を塞がれる。息する暇もないくらい激しいキスが降ってきて受け止めるのが精一杯だ。あぁ…また、あの日に戻る。
「許さないから。」
帰り道を見失ってなってしまいそうだ。
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