怖い、嫌いの裏返し

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その夜眠ったホテルはあの日、秀哉と過ちを犯した地元のホテルに良く似ていた。系列のホテルなのだから当たり前と言われたらそこまでだけどもそういった意味ではなくて体を包む温かさやすぐ真上から聞こえてくる規則正しい寝息だとかあの日、部屋を出る前に自分の胸の中にこっそりと刻みつけて誰にも悟られることなく、だけど忘れたくない思い出として残しておくつもりだった。 一度だけならば奏はきっとお互いの為にこの件を不問にしたし現にそうしていた。それは奏の職業柄というのもあるけれどそうした方が残された側の人間としては気持ちの整理が着けやすいからではないかと思う。 でも二度目は? 生まれたままの姿でお互いの指を絡ませてどうかお願いだからこの夜が明けてしまわぬ様にと願ったけれど、目が覚めればあっけなく朝はやってくる。 秀哉の腕に抱かれながら起きた朝はここ数日感じていた謎の倦怠感に襲われることなく気持ちよく起きれたと思う。そこまでは良かった。 「・・・んぅっ、ちょ、!待ってってば・・・・・ しゅうっ・・・!」 秀哉よりも早く目が覚めた私は一足先にシャワーを浴びて身支度を整えておくためにベットから出ようとしたのだけれど現在進行形で妨害行為にあっている真っ最中である。 「・・はっ、……もっ、無理だからっ!」 「・・・・・ヤダ。手ぇ離したらまた消えそうだもん。」 急に降ってきた強引なキスから始まり思考がまたふにゃふにゃにされそうになったかと思いきやお尻や胸元で不審な動きをする手によってしっかりと引き戻された。男の人って寝起きでもどうしてあんなに元気なのだろうか… 「もう勝手に帰ったりしないわよ。その為に昨日あの後私から携帯と財布を回収してたじゃない。あの時とは状況が違うんだから一文無しじゃここから帰れないわよ。」 反論の言葉を返してから気づいた。墓穴をほったかもしれない。 「・・・ふーん、」 ほんの少しの間をあけて返された返事に一体どんな含みがあるのか聞きたいけれどここで気楽に聞いてしまえるほど馬鹿じゃない。《二度目》は少しくらい自分の意思も含まれているから。 先ほどまで昨晩の色香がまだ残っているようだったのにほんの数秒でコロコロ変わってしまう。
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