怖い、嫌いの裏返し

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前からも後ろからも静香が何度もうダメと口にしても一度スイッチの入った秀哉の手が止まることはなく「あ、ゴム無くなったかも。」 そう呟いた声をぐずくずにされてまともな思考を投げ捨てた頭の片隅で聞いたのを最後に意識を手放した。 「んー、、、どうしよっかなー。」 使い切るつもりなんてこれっぽっちもなかったのに予備を含めて二箱買ってきたソレは1日も持たずに無くなってしまった。静香を目の前にすると僅かな理性のカケラも無くなってしまう自分に笑いが零れる。2人で寝るには広すぎるベッドの端っこに触り心地の良い柔らかな身体を露わにしたまま静香は気を失うようにして眠っていた。 自分の分身はまだ熱を持ったままだけど流石に眠っている人を無理やり犯す趣味は持ち合わせていない。 放っておけばそのうち静まるだろう 部屋に備え付けのバスローブを羽織り1人でバスルームへ向かって軽くシャワーを浴びる。ついでに身体を拭くための濡れタオルを作ってからもう一度部屋に戻る。よっぽど疲れたのか汚れた身体を拭くために寝ている身体を動かしても静香は全く起きる気配がなかった。 綺麗にした身体をベッドに寝かせた後昨夜静香から没収した携帯を確認する。流石に暗証番号が分からずロックを解除することは叶わないけどホームボタンを押した瞬間画面いっぱいに広がるメッセージと着信履歴の数。それは昨日の23時を最後に途切れていた。 《電車遅れてるの?》 《待ってる時間が酷く長く感じるよ》 《何かあったの?》 《お願いだから返事をして。不安になるよ》 《もしかしてまたアイツなの?》 決して束縛したり連絡を返さないことに対して怒っているわけでもなく優しく紡がれる愛の言葉。そして、最後に送られているアイツが指し示すのは他でもないきっと俺自身。 「…んっ……、か…なで……」 後ろから声が聞こえて慌てて振り返る。静香は先程と変わらず寝息を立てているのでどうやらさっき聞こえた言葉は寝言みたいだ。 「かなで、ね。」 今日ここに来る前駅で見かけた静香の顔は心なしか浮かない表情に見えた。けれど寝言でアイツの名前が出てくるくらい大切にしているらしい。 身体の熱はもう完全に冷めていて冷えた身体を温めて欲しくて静香の眠るベッドに入り腰に手を回す。胸元にある顔をすくい上げて小さなその唇にキスをした。夢から覚めないでと願いながら。
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