選んだわけじゃない

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選んだわけじゃない

「ねぇ、奏はどうして私と付き合おうと思ったの?芸能人なんだし他に綺麗で素敵な女性は周りにたくさんいるでしょう?」 何度も何度も繰り返し聞かれるその問いかけにまともな答えを返したことはまだ一度もない。 確信的な理由はもちろんある。けれどそれを言って静香が納得するのかは別の話だろう。 「…あ……あの、奏。昨日は連絡もしないで外泊してごめんなさい…。迎えにも来てくれてたのに…。」 最愛の婚約者から謝罪が聞けたのは静香が無断外泊をした日から2日経った後のこと。 何をしていたの? 誰といたの? 連絡がなかったから心配したんだよ? 誰かと一緒にいたの…? 問いかけた質問に一切答えることなく静香は申し訳なさそうに顔を歪めて下を向いていた。涙は流していない。でもその態度がもしもの可能性を大いに予感させてしまっていることに気づいているのだろうか? 「ごめんなさい…。本当にごめんなさい……。」 ひたすら下を向いて謝る静香に手を伸ばす。ギリギリ触れるか触れないかくらいの距離まで奏の手が近づいた時静香の身体が大きく震える。 今までの俺ならその反応を見て手を引っ込めてしまっていただろうけど今は違う。迷いなく目の前にいる君の手を引いて震えたままの身体を自分の腕の中に閉じ込めた。 そのまま優しく一定のリズムで背中をポンポンとさする。 「大丈夫、大丈夫だから、お願いだから俺を怖がらないでよ。静香が話せないなら……いや、違うな。何も話したくないのならこれ以上は何も聞かないから、顔を上げて?」 奏の問いかけに少し迷ってから静香は抱きしめられてる腕から少し身動いで顔を上げる。 「分かっているとは思うけどこんな事で婚約は解消しない。静香にはちゃんと話してなかったけどやっと手に入れた一生かけて大切にしたい宝物がキミなんだ。だからこんな小さな事で手放せる訳がない。」 「でも……」 「あの日…、同窓会の日も似たようなことがあったけど俺は何も言わずに今まで通りにいただろう?それに静香も何も言わなかったじゃないか。大丈夫だよ。俺たちは未来を共に過ごすための誓いをするんだからこんな事で挫けたりしない。させないよ。」 「だって」や「でも」は聞き飽きた。 「そのかわり、と言ったらあれだけど明日一緒に役所へ行ってくれる?口約束だけじゃない繋がりが欲しい。」 本当の意味でキミが欲しい。
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