選んだわけじゃない

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「あなたが好きです。それはくだらない芸能人の戯言とか遊びとかそんなの一切関係なく静香が好き。もしも静香が俺のこと異性としてじゃなく友達として少しでも好きって思ってくれるなら俺と付き合って欲しい。」 やんわりと、逃げられないように両手を掴んでいて正解だったかもしれない。『あなたが好きです。』と一番最初に口にした瞬間、静香の身体が強張って咄嗟に逃げそうになっていた。 これは静香の意思とは関係なく身体が自然と起こす拒否反応であることを知っているから然程驚かないけれど実際に目の当たりにして悔しくなる。 どうしてこんなに臆病になる前に出会えなかったのかと。 「返事は今すぐじゃなくてもいい。だけどこのデートには必ず来て。そしてこの場所で夢が覚めないうちに返事を頂戴?」 静香がまっすぐに目をそらさないでいてくれたのは幸いだった。それは彼女が大人になってから身につけた努力の結果だろう。 「・・・・・わかった。」 静香が返事をして俯く。それを確認してから繋いでいた手を離した。静香の身体が逃げようと動かないことに安堵する。 「残った仕事はまた今度にしよう。いつもは部屋に戻っていいから明日の出発まで休むといい。」 静香はこくんと頷いてそのまま俺の顔を見ることなく部屋に戻っていった。 静香がハウスキーパーの仕事をするようになってから俺は空いてたゲストルームを静香専用に変えた。家に休める場所があれば仕事が遅くなっても無理に帰らずに済むし何より2人でいられる時間が増える。最初はなんだかんだ文句を言って帰ろうとしていたが最近はようやく慣れたのか置いてあるベッドで寝てくれるようになったのだ。 何はともあれ明日、どんな手を使ってでも静香の了承を得なければ何のためにこんな事をして出会ったのか分からなくなる。 キッチンには静香がやり残した洗い物が置かれたままだった。それを手に取り久しぶりに自分で家事をこなす。途中、洗い流すための水量を増やして大きな音を立てたのはどこかから聞こえ漏れてくる鳴き声を聞きたくなかったから。
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