選んだわけじゃない

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目の前に広がる美しい夜景を眺めれば普通は歓喜の声の1つや2つ出てきてもおかしくないのに静香は最初に初めて入るスイートルームの広さと豪華さに驚いたっきりソファに座り伏せてしまった。あまりの緊張具合にこちらの方が申し訳なくなってくる。 「疲れたでしょ?お風呂、用意してくるから先にあったまっておいで。その間に軽くつまめるものでも頼んでおくから上がったら俺の寝酒に付き合ってくれると嬉しいな。」 そう声をかけたのは下心なんてほぼ一切無く、静香の緊張をほぐしてあげたいから…ただその気持ちだけだった。静香はこちらをみて頷くと寝室の方へ一旦消えていった。おそらく着替えを取りに行ったのだろう。 日中、パーク内で遊んでいたときはいつものように笑顔を見せてくれていた。だからこの後の事を忘れて楽しんでくれていたと思っていたのにどうやら違ったらしい。 窓辺にある椅子に座って窓の外を眺めた。「この夜景より~、」なんてキザな言葉は言わないけれど誰よりも大切に思っている。 「あ、あの…、奏っ!」 物思いに更けていたら静香の方から声をかけられた。見ればまだシャワーを浴びておらず一定の距離を保ってこちらをじっと見ていた。 「こんなところまでついてきて素敵なホテルまで用意してくれてありがとう。それは本当に感謝してるの…だけど、あの、その……」 少しずつ語尾が小さくなっていって目をそらされた。それが答えなんだろうけど、 迷いなく静香へ近づいた足音はふかふかの絨毯によって吸収される。俺が目の前に移動してきたことに気づいて顔を上げた静香はやっぱり少し怯えているのが見てとれた。 「そっか。でもごめん、離してあげるなんて無理なんだよ…。」 「っ!きゃっ…!」 ほんの少しだけ強張っている体でも女性が男の力に敵うわけない。それを知っていて少し乱暴に君の手を掴んでベッドに押し倒した。 「このまま無理やり君を抱くって言ったら、どうする…?」 決定的な言葉を口にした瞬間、怯えていたはずの身体から力が抜けて瞳に影が映る。 「身体が目的なら、好きにすればいいよ。」 まっすぐな視線と絡み合ってそのままゆっくりと目を閉じた。本当はこんなことするつもりなかったのに激情に流されて試すような真似をした。でもそのおかげでわかった事がある。 「もっと自分を大切にしてよ、静香…。」
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