選んだわけじゃない

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「まだ何もちゃんも話をしていない。」 「あなたと話すことなんてもう何もないわ!」 「やっとここまできたのに、今更手放せるわけないだろう!?」 勢いで告げた言葉に静香の足が止まる。振り向いたその瞳には絶望しかない。 「そういう事だったの。あたしに優しくして惚れさせて遊んで、飽きたら捨てるつもりだった?残念だったわね…身体が手に入る前に気づかれて。」 「だからそうじゃないって言っているだろう?!」 「何も違わないわ!いいから早くこの部屋から出して…」 「静香!!」 名前を怒鳴るように呼んだら静香の身体が震えた。自分の名前を呼ばれることを彼女が酷く嫌うのを知ってて名前で呼び続けてこうすればあまり適切な方法ではないにしろ動けなくなることを知っていてそうした。 部屋の扉の前で微かに震えるその身体に手を伸ばしてもう一度優しく抱きしめる。 「君が助けてくれたから今の俺がここにいるんだよ。何年も探してやっと見つけた時には君の方が消えてしまいそうだった。それが静香の持つ体質であることも分かってるから…ちゃんと話を聞いてほしい。」 否定はされない。都合よく解釈させて貰い震えたままの静香を抱き上げてリビングのソファーに座らせた。今日は告白の返事を貰うだけのつもりだったけどきちんと話さないときっとこれ以上は受け入れてもらえない。 「もう5年くらい経つのかな?無名で芸名もまだ奏じゃなかった時に静香に救われたことがあるんだよ。」 「街でスカウトされてなんとなく芸能界入りして最初はイケメン俳優として事務所もすごい営業してくれてたんだけど全然売れてなくてさ、やっと仕事がきた!と思ったらドラマの端役。しかもオンエアではそのシーンカットされてたりして全く映んねーの。笑えるくらい滑稽だったよ。」 ヤマさん以外に初めて話す自分の過去。 最初は自分なりに頑張ってやってみたけどなかなか上手くいかなくて今にも消えそうだった。だけど 「あの日、スタジオでバラエティ番組の収録してた時上手くトークとかできなくてスタジオの隅っこで落ち込んでたらたまたまそこにいたアルバイトの子が俺の目を見てすっごくキラキラした顔で言ってくれたんだよ。」 《あなたが凄く素敵な人だって事、みんな今は気づいてないだけです。大丈夫ですよ!だって…》
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