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「私、奏のものだって証が欲しい。」
よく晴れた昼下がり。執筆中に部屋を訪れることがほとんどない静香が珍しく声をかけてきたと思ったら突然言われたのがさっきの言葉だ。
「えーっと、し、静香?急にどうしたの…?
証って言ったって婚約指輪も渡したし俺たちはそもそも婚約中だしそれ以外ってなったら……え??」
かけていた眼鏡を机に置いて頭の中で言われた言葉を整理する。単にプレゼントが欲しいならあんな言い方をするわけないし口にした通り婚約指輪なら今も静香の指で光っている。それ以外?
「なんでこーゆーときだけ上手に察してくれないのよ…、ばか!!」
首を傾げていたら扉のところにいた静香が近づいてきて両手で顔を上に向かせられ顔に影が重なる。唇に熱を感じたのはほんの一瞬だけだった。だけど、その行動で静香の意図が全て分かった気がする。目をそらしつつも離れる様子のないリンゴみたいに顔を赤くさせた静香を捕まえて向かい合うようにして膝の上に座らせた。
「ねぇ、今のは本当にそーゆーことでいいの?俺ずっと我慢してたしいまさら待てないからすぐにでも役所に行ってきちゃうよ?
本当に、俺の奥さんになってくれるの…?」
奏の問いかけに恥ずかしそうに静香は笑って頷くけど急な態度の変わりように嬉しい反面戸惑う。
全てを把握しているわけじゃないけど俺との結婚を躊躇するくらい静香はもう一度、秀哉に気持ちが傾きかけていたはずだ。それなのに今日になって急に本当に急に奏のものだって証が欲しいなんて…。
「静香がそう言ってくれてすっごく嬉しいよ。だけど、この間まで少し迷っていたように感じていたのに本当に大丈夫?無理してない?」
「してないよ。」
「本当に本当?」
「ホントにホントだよ。無理もしてない。」
「………本当にいいの?」
「もー、奏ってば心配しすぎ!!」
高ぶる気持ちを落ち着かせて何度も繰り返し問い続けた。だけど静香はその度に楽しそうに笑いながら肯定の言葉を返してくれる。
「わかった。それなら今すぐ役所に行こう!それから結婚指輪も買わないとね。」
「・・・うん、いっぱい待たせてごめんなさい。」
「静香がこれからずっとそばにいてくれるだけで幸せだからもう何も謝らないで。」
ギュッと2人の間にこれ以上何の隔たりもないくらいキツく、でも優しく抱きしめた。仕事のことは頭の中から転げ落ちた。
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