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「せっかくあたしがほんっっっっっのちょびっと手を貸してあげたのになんで無駄になってるわけ?
あの時話してくれた決意は嘘だったってことなのかしら?」
目の前に座る絵梨が持っていた携帯をテーブルに乱暴において反対側に座る秀哉を怒った。幸い画面が割れることのなかった携帯にはネットニュースの速報で奏の結婚報道がデカデカと載っていた。
「静香の方から初めて連絡を貰えたから少し浮かれていたみたいだ。2週間前に今日、話があるからここにきて欲しいって言われてやっと奏と別れるって決意してくれたか俺のことを好きって行ってくれるのかと思ってたら絵梨がいて…結婚のニュースを見せられて……」
「あんた、大人になったのになんで子どもが考えるような脳内お花畑思考なのよ。アホか。やってられないわ。」
丸めた雑誌で頭を叩かれて落ち込むアラサーサラリーマンか、あいつとは大違いじゃん。
顔出しこそしなかったが報道関係者に事務所を通して送られてきたFAXには奏と静香が直筆で書いたメッセージが届いたとされていてそれがそのままネットニュースにも載せられている。
これが他人のものに手を出したツケか…
「なんともなんねぇよなぁ~!!」
この場に絵里しかいないのをいい事にテーブルに突っぷす。これじゃ恋に悩む学生とさして変わらないじゃないか。いい年した大人が何やってんだか…
「2人とも、お客さんが来たよ。」
どんよりした空気を少しかき消すようにマスターの声が聞こえた。
「他に誰か呼んだの?」
「さぁ?あたしは知らないわよ。」
マスターが背後にいるらしい"お客さん"に声をかけた。かるく会釈をして室内に入ってきた人物にたぶん俺も、絵梨も驚きを隠せない。
「やぁ、秀哉くんに絵梨さん。初めましてよりも久しぶり…と声をかけるのが正しいのかな。」
「ここは個室だからね、君が変装を解いても騒ぎになる事はないだろう。軽くひと避けもしておくからゆっくり話し合いをするといい。」
「ありがとうございます、マスター。」
「奏……、」
突然現れた奏は眼鏡とマスクを外すとこの場所にいるのが当たり前のように向かいの椅子に座りニコリとこちらを見て笑う。
「ちょっ、なんであんたがここに来るの?!」
「なんでも何も君らをここに呼び出したのは俺だからね、何も不思議なことはないよ。」
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