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「はぁ…。」
今の自分の行動がきっと隼人や祐希あたりに知られたらドン引きされること間違いなしだろう。
今いるのは同窓会が開催されたホテルの一室。別にこのランクのホテルに急に一泊しても平気なくらいは稼いでいるし蓄えもある。そんなにランクの高い部屋をリザーブしたわけでもあるまいし。
あの後、会がお開きになり学生時代イケイケ組だった俺は当然のように二次会へと誘われたが適当な理由をつけて断った。理由は簡単。
このホテルの上階に消えた富松とあの「奏」とかいう男が気になったせいだ。
「昔自分を好きだった女に執着するとか我ながらキモすぎて今すぐ消えて無くなりたい…」
そんなことを言ってももうホテルには宿泊の代金を払ったし時刻は23時になろうとしている。
いっそやけ酒でもするか
下着の変えは持ち歩いているしスーツで来たといってもシャツを変えればオフィスカジュアルくらいには緩く見せることもできる。
最寄りのコンビニの場所を調べて俺は部屋を出た。
コンビニから戻り鍵を受け取ろうとしたらフロントに先客がいた。その人物の姿を見てあー、なんか見覚えありそうな感じがするなー。とぼんやり考え…
「って、富松!?」
「えっ、は、はい!!?」
急に声をかけたからだろう。彼女は思いっきり体をビクッと震わせて持っていた鍵を落とした。フロントのスタッフも驚いていて「お客様、大丈夫ですか?」と声をかけている。
しまった。
もし見かけたとしても声をかけるつもりなんて全然なかったのに無意識にやってしまった…。
鍵を拾った彼女はこちらへ振り向き大きく瞳を開ける。
「・・・たけ、ま・・つ。」
その声で苗字を呼ばれるのがひどく懐かしく感じた。もう10年ぶりくらいなのだから当たり前か。
こうなったらもうヤケクソだと自分の部屋の鍵も受け取り富松に向き直る。
「あ、えーっと…久しぶり。富松の同窓会の後にこのホテルに泊まったんだ?」
「・・・ひ、久しぶり…。あ、えっと、その…
私お酒あんまり強くなくて、すぐ酔っちゃうから奏が心配して部屋をとっててくれて。」
彼女の声で呼ばれたその名前を聞いた瞬間心に真っ黒なモヤがかかった。やっぱり2人は付き合っているのか、それとも…
「武松は、二次会に行かなかったの?」
彼女は俺がぶら下げているコンビニの袋を見て不思議そうに問いかけてきた。当たり前か。
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