忘却のプレリュード

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宵は、明けることを知らない。 自らは深淵を彷徨い続けるのみだからだ。 其所に太陽があり、其処に炎があり。灯りがある。 すると宵は、己の居場所を失う。 照度を失った視界の中、私の意識は覚醒した。 目を開いた筈だったが、眼前に広がるのは闇。 闇。 闇。 どれ程眠っていたのだろう、全身を怠惰が包んでいる。 私は何時の間に潜り込んだのかも分からない羽毛布団の中で、僅かに動く四肢に力を込め身動いだ。 自然と唸り声が漏れる。 一呼吸置くと、何処からか風の音が聞こえてくる。 恐らく窓を開けたままで眠りについたのだろう。 我ながら不用心にも程がある。 最近は猟奇的な犯罪が多く発生しているから気を付けようと思った矢先にこれだ。 昔からの三日坊主癖は、大人になってからも抜けぬまま。 これでは玄関の鍵を閉めているかも疑わしい。 人間変わろうと思うことは出来ても、本当に変わりきることは中々出来ないものだ。 視界の暗黒に目が馴染んだ頃、私は玄関の施錠を確認する為に起き上がる。 頭痛がする。 鈍い痛みだ。 後ろ髪を引かれるような。 こめかみを誰かにずっと押さえつけられているかのような。 そんな感覚。 寝起きというのは意志が弱くなる。 洗濯物が溜まっているけど、明日で良いかとなるし、 ゴミを外に出さなければいけないが、来週まとめて出せばいいや、となる。 ……もしかしなくても、私がずぼらなだけかもしれない。 しかし、家の鍵となるとそういうわけにもいかない。 別に夢とか、成し遂げたいことがあるわけではないけど、死にたくはない。 鍵だけでどこまで変わるかは、甚だ疑問ではあるが。
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