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おや、どうして歯ブラシが二つもあるのだろうか。
使い古しを捨て忘れたか。
詰めが甘いな。
本当に。
社会に出て、後輩も増えて、指導をする機会だってあるというのに。
模範とならなければいけないのに。
人間として、私は出来損ないの欠損品なのだ。
やらなければいけないこともやらないで、
やりたいことができるはずがない。
だから私は、「いつまでたっても独り」なのだ。
変わりたい。
生まれ変わりたい。
正しい人間に、間違いのない人間になりたい。
……と、目に水が入った。
痛い。
さて、切り替えだ。
現状を嘆いていいのは、変わろうとする、変えようとする人間のみなのだから。
まずは部屋の片付けからだろうか。
週刊誌の一つを手に取る。
こんなもの、私は読まない筈なのに、どうしてこの部屋にあるのだろう。
CDも、洋楽なんて私は聴かない。
……捨ててしまおう。
同じ形で色違いの茶碗も、一つあればいい。
そもそも私はコンビニ弁当派だ。
散らかっている、一つ一つを見ていく。
……要らない。
要らないんだよ、もう。
こんなもの。
必要のないもので溢れ過ぎていた。
この部屋は。
捨てよう。
棄ててしまおう。
(……ごめん)
おかしな声が聞こえた気がした。
弾かれるようにして顔を上げ、部屋を見渡す。
……幻聴か。
或いは心霊か。
早めにここも引き払った方がよさそうだ。
要らないものが、多過ぎる、から。
要らなく、なって、しまったから。
そうして私は、またひとつ大切なものを、大切だったものを忘れる為に。
一つ一つ、ゴミ箱へ捨てていく。
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