第1章

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「君と見た月のない空 星だけはやけに明るかった」 第1章 1日目  星空だった。見渡す限りの、それは見事な星空だった。  夜が暗いなんて信じられない程の光が、空を埋め尽くしている。天を渡る川は、波を立て勢いよく流れている。その川に飛び込むように星達が動き始めた。初めは恐る恐るといった感じで流れ出し、今や我先にと競うかのように走っている。  その光達に私は釘付けになっていた。初めて見る光景に、さっきまで寒くて泣きそうだったことすら忘れ、全身でその光を受け止めようとするかのように、ただただ空を見上げてた。  ふと横に目をやると、同じように空を見上げている人がいる。私はその人と手を繋いでいる。その手だけが温かかった。空いた方の手に何か持っている。そうだ、この人が私をここまで連れて来てくれたのだ。私を誘ってくれて、迎えに来てくれた。これを渡してくれた。  私の視線に気づいて、こちらを向く。優しく笑っているその人の顔は、見えなかった。  あなたは…?  ガタン、と体を揺すぶられ目を覚ました。  目に飛び込んできたのは流れていく景色だ。晴れ渡った空が田園風景を照らしている。その景色が凄いスピードで過ぎ去っていく。どうやら電車に乗っているみたい。何かいつもより速いし、座っているシートも豪華だ。これは新幹線…?後ろの席の人が何かゴソゴソしてるから、さっきの揺れはシートに何かぶつけられたのかな。えっと…何で新幹線に乗ってるんだっけ?ああそうか。今日から偶然取れた連休、しかも楽しみにしていた一人旅を出発したところだ。  4連休なんて久しぶりだ。年末年始もお盆も基本的には仕事をしているし、2連休も月に1回あればいい方だから本当にラッキーだった。  「白山さん、そろそろ有給使ってくれないと困るんですけど。」  柔和な表情でそう店長に釘を刺された。そうでした。すっかり忘れてシフトをガンガン入れてましたね…。だって人手が足りないしお客様の対応をしてたらどうしても時間が足りなくて…。
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