恋は忘れた頃に

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しばらくして面接時間になった。 ドアを軽くたたく音がして、森田さんがどうぞ、と大きな声で返すと、ゆっくりとドアを開けた。 「県大情報経営学部3年、斉木です。よろしくお願いします」 入口には、ボブの黒髪に入学式以来着なかったのであろう、新品に近いダークグレーのスーツに書類がたくさん入る重そうな黒いカバンを持ちやってきた。 県大といえば、わたしの母校でもある。 わたしが大学生のときも、今現在もいろんな学部が存在している。 次世代の学びの多様化と募集定員の関係で5年前から情報学部と経営学部を統一して情報経営学部になった。 「どうぞ、こちらへ」 失礼しますと丁重にことわり、斉木さんは向かいの席に腰かけた。 「必要事項の書類はこちらで預かっているので、今日は簡単な面談だから」 森田さんがそういうと、斉木さんは少しだけ緊張がとかれたのか、口元にうっすらと笑みを浮かべた。 彩音さんはこちらを向いて目で合図する。 「えっと、いつからできそうですか?」 「できたら早めにお願いしたいです」 まっすぐな声に圧倒される。鋭い視線を向けているけれど、きっとわたしも同じく彼女に対して鋭い視線でかえしている。 「学校は大丈夫なの?」 「はい」 「そう。それなら来週からお願いできるかな」 「はい」 「何か質問は?」 「……ありません」 まっすぐ見つめる視線が弱くなり、斉木さんは手元を見つめた。
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