恋は忘れた頃に

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「わかりました。こちらからの詳しい資料はあとでメールで送るので目を通しておいてください」 「ありがとうございました」 斉木さんは軽くおじぎをすると、森田さんが今日はこの辺でと言うと、ほっとした表情を浮かべ、帰っていった。 「どう、みづき。あの子」 見かねて彩音さんが言葉を発した。 「いいんじゃないんですか」 「勤務は一年なのでゆっくりと見守ってあげてくださいね」 森田さんがやんわりと話してくれた。 この先どうなるかわからないけれど、わたしもかけだしの会社の人間だし、お互いに成長しあえたらいいな、と強く思った。 そう思いながら目の前の仕事をやってきた、一週間後の月曜日だった。 約束の17時が近づくにつれ、こちらも仕事をしているものの、緊張してきたのか、いつもよりペースが遅くなっている。 「もう、そうじゃないのにっ」 いつもよりも大きな独り言が口から出てくる。 明日までにあげなければならないデータを入力して時計を見ようと入口に目をやると、ブルゾンにデニム、黒髪なナチュラルショートカットの男子が立っている。
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