恋は忘れた頃に

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「はい、mizuki factoryです。いつもお世話になっております。はい、新規のデータ入力ですね。かしこまりました」 用件を聞き、メモをとり、済んだら受話機を置く。 しんと静まる社内に私だけがひとり、席に座っている。 午後にさしかかり、気を張っていても、お昼に食べたごはんの影響で眠くなる。 席をたち、歩いて数歩の窓辺に立つ。少しだけブラインドをあげた。 すきまから降り注ぐ日の光に目を細めた。 3月も半ばになれば少しは暖かくなるかなと、会社の窓を開けるけれど、暖かいどころか冷たい風が流れ込んできて、すぐに窓を閉めた。 世間は年度末で、いろいろと切り替えが必要だけれど、仕事には多少影響があるものの、年度末だからという気持ちはとくにない。 机の上に置かれたスケジュール帳を広げ、新規の仕事のスケジュールを書き込む。 ぱらぱらとページをめくるけれど、どれも納期だったり、仕事の内容ばかりが目に飛び込んでいる。 スケジュール帳の間にはさまれたスケジュール管理のシールをみる。 ひとつの欄を残してたいていは使われている。 ハートの形をしてデートとかかれたシールだった。 いつかこのシールを使うその日がくるのだろうか。 その前に新しいスケジュール帳に交換して使われることなく、捨ててしまうんだろう。 思わず溜め息をつく。 向かい合わせたもう一つの事務机に書類の入った棚が四方を囲んだこの小さなオフィスの中での溜め息はすぐ自分の耳に入って気分が滅入る。 結果、自分のせいだとわかっていても、仕事は嘘をつかないからがむしゃらにやってこれた。
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