恋は忘れた頃に

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長くつきあってきて、そろそろ結婚の話がでてきても遅くはない。 そんな、30手前にさしかかる、ある日のデートの事だった。 いきつけのレストランに誘われ、いつものようにご飯を食べながらお酒をかたむけているときだった。 くだらない話から急に仕事の話を振ったのは、裕介だった。 「今日もみづき宛てに取引先の営業から直接取引あったんだって?」 「少しでも会社に貢献できればと思って引き受けてるんですけど」 「いいよな。簡単に仕事ができるヤツは」 「えっ」 「ああ、何でもないよ。こっちのこと」 今考えれば、わたしを仕事上で対等に扱ってくれていたのかもしれない。 次第にわたしの仕事量が彼の仕事量を追い抜いていった。彼の顔色もそれに従って曇っていく。 「入社してできたやつだと思っていたけどな」 「ごめん」 「何あやまってるのさ」 「裕介の顔もたてずに」 「いいんだよ。それより、大きい仕事まかされたんだろう」 「企業のパンフレットと新会社のマークとロゴデザインです」 「よかったじゃないか」 彼はにこやかに笑っていた。でも、お酒を飲んでいるときも、私をみつめているときも、どこか遠くにいるかのように照準があっていなかった。
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