恋は忘れた頃に

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「どう、みづき。仕事、順調?」 肩まで伸びる黒髪を後ろにきれいにとめ、紺色のジャケットと同系色のスカート姿の人が部屋に入ってきた。 訪ねてきたのは、高校時代の2つ上の先輩で、以前の職場の先輩、さらに個人事業主としても先輩の彩音さんだった。 たまたまいった起業セミナーで声をかけてくれたのは彩音さんだった。昔話に花を咲かせつつ、起業する話をすると相談にのってくれた。 1年ほど自宅で仕事をするようになって、ワンルームの自宅ゆえ部屋が手狭になった。困っていたところ、自宅から近くのレンタルオフィスが空いていると彩音さんから情報をもらった。 家賃も室内整備もきっちりしている部屋だったので申し分なく、今に至る。 彩音さんの紹介で入居できたので、彩音さんには逆らえられないのが現実だった。 「彩音さん、今日は」 「これ」 「いつもありがとうございます」 私の大好きなタルト屋さんのパッケージだ。彩音さんも同じビルの別の階にあるレンタルオフィスに入居しているので、たまに仕事の件も兼ねてコンビニスイーツを差し入れしてもらっているのだが、今日に限ってちょっとお高いタルト屋さんなんて。 「みづきに紹介しようと思ってるんだけどさ」 「なんでしょう」 「商工会議所がね、若手の人材育成をかねて、地元の大学生を雇って職場体験させることになったの」 「ええ」 「それで、みづきにもどうかな、って」 「え? この小さな会社に、ですか?」 「だいぶ仕事も順調って聞いたから、どうかなって」 「でも、私、お給料とかは……」 「そのところは市でやってくれるらしいよ。実績、作りたくない?」
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