恋は忘れた頃に

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実績。確かに商工会に少しでも恩を売っておけば、何かあったときに頼りになるけれど。 「……自信ないです」 「自信なんて、最初からある人間なんてまれよ」 彩音さんはそういうと、ニコリとほほえんだ。 「本当は私のところで受けようと思ったんだけど、条件があわなくってさ」 「ですけど、こんな小さな会社ですよ」 「一人ならどう? 今まで一人で頑張ってきたわけだし、そろそろ人雇ってみてもいい頃じゃない?」 「う……ん」 「一度話聞いてみてよ。パンフレット置いておくからさ」 持っていたカバンから封筒を取り出し、わたしの机の上に置いた。 「じゃあ、いい返事、期待しているから。期間限定のいちごタルト、おいしいわよ」 声をはずませて、彩音さんは部屋を出ていった。 タルトをごちそうになったからには、彩音さんが机に置いたパンフレットを見ずに捨てるわけにもいかない。 いちごとフルーツタルトを充分味わい、胃の中に流し込む。 しぶしぶパンフレットに手をのばし、中身をめくり、チェックする。 『仕事体験が未来の仕事人を増やす!』というキャッチコピーからはじまり、前年度の職業体験の会社一覧が載っていた。ずらずらと地元では有名な会社名が並ぶなかに、以前勤めていた印刷会社の名前も記載されていた。 仕事をしている写真があり、そこには大学生たちの初々しい笑顔とともに体験談が載っていて、どれもお世辞といわんばかりのいいことばかりが記載されていた。
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