恋は忘れた頃に

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読みふけっているうちに、自分が大学生だった頃はどうだったんだろうと、改めて考える。 わたしの時代にもこんな職場体験をさせてくれる職場があったら、あのときの人生は変えられたのかな、なんてついつい過去を思い返してしまった。 溜め息をもらし、パンフレットを閉じた。 仕事量は確かに増えたけれど、果たして満足して働いてくれるかどうか、心配になった。 こんなしがない商売でなんとか軌道に乗せているところだけれど、ちゃんと働いてくれるだろうか。 ちゃんと仕事についてこられるんだろうか。 そこまでには、ちゃんとわたしが学生をお膳立てしていかなくてはいけないのか。 忙しくなったときの、学生への対応はどうなるんだろう。 考えたらキリがなくなってきてしまった。 ふと、入口に掲げられた丸い掛け時計が16時をまわっていた。 後ろを振り返ると、先ほどまで曇っていたのに、だいぶ日が差してまぶしくなってきた。 席を立ち、ブラインドのはねを降ろした。 ストンと席に座る。 椅子の足が引き出しにぶつかり、拍子で転がっていた万年筆がふとももの上に乗る。 誰もいないことをいいことに、パンツと少しよれた長そでのTシャツ姿だったな、と自分の服装に無頓着だと知る。 新しい服、買ってなかったな。学生が来るから、新調しなくちゃ。駅前のデパートでもいって調達するか。 万年筆を拾い上げ、机に置いた。 「その前に、まずは目の前のデータ原稿を終わらせてから考えるか」 大きな声で自分自身にいいきかせ、パンフレットを机の中にしまい、パソコンの横に積まれたデータ入力の原稿を引っ張り出して、キーボードをたたきはじめた。
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