恋は忘れた頃に

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「みづき、昨日の返事もらいに来たよ」 白いブラウスにクリーム色のパンツで彩音さんは元気よく部屋のドアを開けて入ってきた。 時刻はまもなく14時。 お昼をすぎ、ちょうど作業をしていて眠くなる時間帯だったので、目覚ましになってちょうどよかった。 「で、どう?」 笑顔のまま、わたしの座る席までやってきた。 「うーん、まだ自信がなくて」 予備におかれた机に備え付けてある椅子を引き出し、彩音さんは細く長い足を組んで座った。 またそんなことを言って、と彩音さんは前置きしてさらに続けた。 「仕事のことだったら心配しないで。こっちもだいぶ忙しくなったから、助けてもらおうかなって思ってたところ」 「えっ」 驚きと新しい仕事を彩音さんからもらえることにほっとした表情をくみとったのか、彩音さんはさらに目を細めて笑ってくれた。 「ホントは安くやってもらおうかな、て思ったけど、みづきのところは一人だから、他の外注よりも多くつけとくから」 「ありがとうございます」 すかさず丁寧におじぎすると、そんな肩苦しくしなくていいから、と彩音さんは席をたち、肩をぽんぽんと軽くたたいた。 「で、どうする?」 「……職場体験の受け入れ、させていただきます」 「そうじゃなきゃね。大学生との面談とか打ち合わせがあるから、また連絡させてもらうね」 そういうと、彩音さんは颯爽と部屋をあとにした。 どんな大学生がこの部屋で一緒に仕事をするんだろう。 緊張と不安が一気に襲うけれど、ささやかな期待がふつふつと沸いてきた。
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