戦争に負けた。無残な負け方だった。

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「――よってここに我が領土を、レーツェル国に譲り渡し、わが国は消滅する」  戦争に負けた。無残な負け方だった。俺たちがいる南方戦線は突破され、首都は空爆されて滅んだ。  飛行機なんて時代錯誤なものがまだあったとは。逆に感心してしまう。  捕虜として一ヵ所に集められた俺たちは、元首の敗北宣言をラジオ放送で聞かされた。  熱帯の南方戦線の蒸し暑い環境の中、塹壕に籠り砲撃をやり過ごし、塹壕病に苦しめられた日々は永遠に無駄になったわけだ。  俺はむしろ納得した気分で、額からとめどなく流れ落ちる汗をぬぐった。 「土方隊長、俺たちどうなるんですかね」  一番若い部下が情けない顔で耳打ちしてくる。お互いの顔は泥で汚れていた。俺は疲れたように笑った。 「どうなるってお前、敵さんが俺たちを生かしてくれると思うか? 文字通り居るだけで場所取りだぜ、俺たち」  今の世の中、土地が足りな過ぎて人間の方が邪魔なのだ。  西暦2500年、世界は地球大温暖化で大陸の8割が海中に没した。生き残った人類がやることは一つしかない。残った土地を奪い合って、戦争で敵国の人口を減らし、自国の領土を拡大することだ。作物を育てる土地も、住む土地も足りない。 労働力は自国民でこと足りるし、捕虜に食わせる食料はない。   となるなら、わざわざ捕虜を生かす理由もないわけだ。大昔は捕虜の人権とやらに守られて自国に帰れることもできたが、今回の戦争では人口削減が元々の目的である。そして負けて領土はなくなり、帰る国も失った。完全に詰みだ。   俺はむしろ笑って言った。 「まぁ、俺たちはよくやった。天国は満杯になることはないそうだから、あの世に期待しようぜ」  部下は納得いかないのか眉が八の字だ。 「諦めないで下さいよ! そこは『俺がなんとしてでも生かして帰してやる。心配するな』って激励するところでしょ」 「できないことは約束しない主義なんだ、俺」 「たいちょう~」 「ははっ」  空笑いも極まれり。駄々をこねられてもどうしようもないんだからしかたない。  俺だって国には家族がいたし、帰れるものなら帰りたい。しかし、一度兵隊に出た以上帰れる保証は皆無だ。この国と戦って負けた兵隊は帰ってこない。ただの噂ならまだしも、本当に一人も帰ってこないのだ。  皆殺しにあってるとしか考えられない。そしておそらく次は俺たちの番だ。
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