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イガイガに覆われた巨大カニ型揚陸艦。
その内部はただの船というには狭苦しく、冷たい雰囲気だ。そしてとげに覆われているせいで、普通の船にあるべき甲板がない。おかしい……。
俺たち捕虜が閉じ込められた船室は、窓ひとつあるだけで冷たい鉄の隔壁に囲まれていた。なんの余裕か、手と腰の縄は外されている。
『捕虜ノ収容ヲ確認シタ。潜航準備ニカカレ』
艦内放送が船にこだまする。
(……おいおい、潜航ってことは、これが話に聞く“潜水艦”か?)
ならば甲板がないのも納得できる。
潜水艦といえば、世界が海中にほぼ沈んだ頃の第四次世界大戦で大活躍した潜航する船だ。当時の主戦場は海だった。ただでさえ農耕地が不足しはじめた時代。陸の農耕地が戦火で使えなくなっては、戦争をして領地をぶんどる意味がない。だから戦火は海で交わされた。船も潜水艦も活躍華々しい時代だった。
だがまぁ、前線で大活躍したということは、戦争中にかなり破壊されたということだ。今では、潜水艦を作る資材も困窮し、潜水艦は老兵の昔語りにでてくる大昔の兵器といった印象だ。
それはともかく――。
「奴らは何者で、俺たちをどうするつもりだ?」
潜航し、窓の外がすっかり海中の群青に染まったころ、ポツリと独りごちた。部下たちは、海の中が珍しいらしく窓に群がっている。
おそらくここまでして俺たちを殺すつもりは無いだろうが、俺たちは甲殻類のバケモノたちにとってどんな利用価値があるんだろう。
(例えば、焼いて食っちまうとか? 溺れる様を見て楽しむとか?)
考えても考えても、恐ろしいことばかり頭に浮かんで疲れてきた。
――と、そのとき扉が開いた。噂をすれば影だ。
「諸君ノ処遇ヲ伝えに来たが、お邪魔ダッタカナ?」
(……嫌味か?)
そりゃあ、小さな窓に鈴なりに飛びついている部下たちは見ものだろう。まるでおのぼりさんだ。いや、潜航しているからおさがりさんかもしれない。……何を考えているんだ俺は。
「お前ら……全員整列!」
命令は雑だが、全員従って三列にならんだ。俺は習い性で人数まで確認して、伝令者に向き直った。
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