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「これでいいな。まず処遇の前に聞きたいんだが、君たちは何者だ?」
「アア、コレハ失礼。マズハ名乗ロウ」
そう言って、甲殻類の奴は、ずるりと甲殻を脱いだ。……だ、脱皮?!
殻を脱ぎ捨てるようにして現れたのは、――魚と人間の中間のような生き物だった。
人型だが、ぬるりと湿った肌は鱗で覆われ、光の反射と共に綺麗な模様をうき立たせた。顔立ちは魚より人間に近いが、それでも顎のラインに切り込みがあり、恐らくそこがえらなのだろう。服は着ていないが、体表のうろこ模様が服に見えなくもない。オレンジと白の太いしましま模様だ。
部下たちは絶句したあと、一斉に距離をとり、ざわざわと驚きの声を上げた。
使者は驚きの反応が嬉しかったらしく、にっこりした。
「ああ、すっきりした。陸の紫外線に抵抗するために、パワード甲殻スーツを着ているんだが、なにぶん窮屈でね。どうだい驚いただろう?」
いきなり流暢になった。そうか、カタコトだったのは甲殻スーツ越しにしゃべっていたからか。現実逃避でずれたことを考えてしまう。
「改めて名乗ろう。我々は見ての通り魚人だ。数百年前の人間が遺伝子操作で作った、魚と人間のハイブリッド種だ。海の底に沈んだ、人間たちの遺産に拠って文明を築いている。まぁ建物は私たちを作った人間が、海中用に改修したものを使ってるがね」
わかりやすい説明だけど、なに、その、なんだって? 魚人?
「そんな話聞いたことないぞ……。河童みたいに架空の存在じゃないのか?」
「実物を目の前にして現実逃避とは恐れ入る。私は本物だ。仲間も、そら、窓の外を泳いでいるよ」
全員、弾かれるように窓を見る。見慣れた普通の魚の群れに交じって、赤い鱗の魚人たちが気持ちよさそうに泳いでいた。あ、こっちに手を振っている。
「彼女達は鯛種だね。時折浅瀬まで散歩に出るんだ。ちなみに私はカクレクマノミ種だ。大昔、ただの魚だった時分は人間に水族館で観賞用に飼われていたようだが、魚人の私は逆に人間館の館長をしている」
「人間館?」
それは潜水艦に連れ込まれるときにも聞いた言葉だ。
“人間館ニ、ゴ招待シヨウ”なんて言ってたから、この船もそこに向かっているんだろうが、……不吉な響きだ。一体何なんだ、そこは。
怪訝な顔から疑問を察したのか、魚人はあっさりと告げた。
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