「水場の恐怖」

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② (…ない、ない、何でだ!) カフェでバイト中の大和は、ひとり大パニック に陥っている。 肌身離さず常に着けている筈の、岬が夏祭りに 買ってくれたイニシャルのリングが、見当たら ないのだ。 (そうか、洗剤で滑って) そう考えた大和は全ての洗い物を済ませ、シン クの水を抜くも見付からない。 排水口のネットを食い入る様に見ている大和に、 スタッフ達が怪訝な表情を向けている。 今にも泣きそうな状態のまま、やがて昼休憩の 時間を迎えてしまった。 いつもの公園に座るも、美味しそうに弁当を頬 張る岬に集中する事が出来ない大和。 「どうした?何かあったか?」 「…ごめんなさい」 「…何だいきなり」 「……っっ…」 (こら)えきれずに溢れ出す涙。岬がギョッとする。 「おい…」 「指輪…っっ…なくしっ…ちゃったっ…の… っっ…気付いたらなくてっ…っっ…」 しゃくり上げながら抱き着く大和の頭を、黙っ て撫でてやる岬。 「…っっ…初めてのっ…お揃いでっ…凄く… っっ…大事なのっ…に…っっ…」 「分かった、泣くなって…ウチにあるかも知ん ねぇだろ?な?飯食うぞ、時間なくなる」 大和は頷き、漸く弁当を食べ始めた。 (…ん?何だコレ) モゴモゴと。岬は口の中に異物を感じた。 「何か…変だった?」 そして何も言わずに立ち上がり、水飲み場へ。 「どうしたの?大丈夫?」 当然慌てて後を追う大和。 「あったぞホラ」 「あ!」 今日のメインはハンバーグ。どうやら挽き肉を こねる最に紛れてしまった様だ。 「良かった!」 「新しいの買った方良くねぇか?」 「いいの、これは岬が俺を思って選んでくれた 指輪だから、これが大事なの俺は」 「…そうか」 ニッコリと指輪を()め、手を(かざ)す大和に、岬は ホッと胸を撫で下ろしたのだった。                     了
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