「隣に引っ越してきたのは…」

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北中を卒業してすぐに、灰二はH市で一人暮ら しを始めた。 まだ完全には片付けの済んでいない部屋で、ダ ラダラと一服をしながら過ごしていると、イン ターホンが響き、 「あれ、葉月ちゃんもう来たー?」 何の確認もせず玄関の扉を開けると… 「どーも、隣に越して来た藤崎です」 明らかに年上のイケメンの姿が。 「あぁ…柏木っていいます、どうもー」 「若いね…一人暮らし?」 葉月がいると言えど知らない土地。気さくに話 す彼に、灰二は何だかほっこりした。 「これから高校入学なんで、俺も来たばっか ですけどねー…大学生すか?」 「そう、通うには実家遠くてさー…」 互いに自然と笑みが(こぼ)れる。 「あぁ、俺もっす。さすがにA市からはー」 「A市?マジか…中学は?」 「北中っす」 「俺の従兄弟が南中だったんだ、藤崎蘭丸… 知らないかー」 何という偶然。 「マジっすかー!?知り合いっすよ、可愛いっ すよねー」 「あ、分かるー?」 初対面にも関わらず、二人はそれから暫くの間、 蘭丸について語り、 「え?手ぇ出したんすかー!?」 「生意気言うからつい悪戯心でさぁ…蓮にぶん 殴られたよ」 親近感を持ちながら、灰二は爆笑した。 「あーじゃあそろそろ…ごめんね長居して」 「いえいえ、楽しかったっす。いつでも来て 下さいよ」 ニッコリと笑みを交わし、踵を返してドアを開 けた彼がなかなか出て行かない。 「どしたんすか?(さとる)さ…」 「もしかして、藤崎悟先輩ですか?」 「…え?」 「工業にいましたよね?」 葉月の声だ。 「あー…ごめん、どっかで会ったかな?」 「いいえ、お会いするのは初めてですよ。坂下 葉月と言います」 「羽田真凛とツートップの?」 灰二を置いてきぼりに、盛り上がる二人。 「カッコいい…何だか…運命感じちゃいますね」 「…え?」 (え!?ちょっとおーい!) 「いやいやいや、ちょっ…悟さん悪いんすけど さっさと帰って貰えます?」 失礼な話だ。 (ようや)く葉月が顔を覗かせる。 「冗談だよ灰二、たまにはいいでしょ?意地悪 したって」 悟のすぐ後に到着していた葉月は、ドアの外で 全てを聞いていたのだ。 「葉月ちゃーん…勘弁してよー」 ホッと胸を撫で下ろす灰二だが、 (人をダシに使うなよ) 気の毒なのは、素直に喜び浮かれてしまった悟 である。                     了
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