「これが全てのはじまりだった」で始まる小説

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これが全てのはじまりだった。 冬のある日。 その日はとても冷えていて、岬は朝から何度も 訴えた。バスで学校へ行きたいと。 「えー…」 一方の大和は毎日一緒に歩きたい。 ぐるぐる巻きにしたマフラーに、赤くなった鼻 を埋める岬の可愛い横顔を見ながら、繋いだ手 をポケットに入れても文句を言われない、貴重 で大好きなひと時だからだ。 それに加え、大和には心配事が。 「痴漢されたらヤだからダメ」 「…されるかバカ」 それは過去にも幾度となく交わされた会話。 「あーマジ(さみ)ぃ!あ!」 いつもは素通りする停留所に、丁度いいタイミ ングでバスが来た。 「なぁ、乗りてぇ」 「……」 とどまる二人に運転手から声がかかり、 「乗るです!」 と乗り込む岬を仕方なく追う大和。 「超混んでんなーけど…あったけぇー」 「…うん」 二人はつり革に掴まり並んだ。 「快適ー…けどちょっと暑いな」 岬がマフラーをほどく。 (あ…可愛い顔晒すなって) 大和が慌てて辺りを見回す。学生よりもサラリ ーマンが多かった。 (…あ?) 何となく背後に感じた感触。それは、岬が気の せいだと思えば思う程、鮮明となる。 (…マジかよ) 思わずチラリと大和に目をやると、 「どうしたの?岬」 全く気がついていない様子。 「…何でもねぇ」 もうすぐ市役所前だ。岬は不快で堪らなかった が、それを過ぎればすぐに学校だという思いと、 自分がせがんだ事で、大和が言った通りの事態 に陥っている状況が恥ずかしく、無言のまま耐 える方を選んだ。が… (マジかこいつ!) 双丘を撫でていた手が、その窪みに指を這わせ 始めたのだから、さすがに怒りが込み上げる。 やがて市役所を過ぎた頃、 (どこの誰だか知らねぇけどぶん殴ってやる) ガッとその腕を掴み勢い良く振り返ると、知ら ない間に乗客が減っていてスカスカ。犯人を特 定するのは容易であった。 「…俺が触っちゃえばいいと思ったの」 てへ、といった様子で大和が笑い、ワナワナと 震える岬。 「てめぇかぁ!」 パァン! (あー…初めて見る顔してたな) 当たり前だ。 それ以来、岬がバスで行きたいという日は二度 と来なかったという。                     了
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