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そして、薬局に入りやすくした後肝心な事は、そのかかりつけ薬剤師に選んでもらえるかである。指名をとるために、資格を片っ端から取得しネームバリューを上げる者、SNSでセルフブランディングと称し、名前を売ろうとする者、見た目の印象を少しでも良くしようとプチ整形をする者も現れた。
しかし、かかりつけ薬剤師制度が始まり、三年五ヶ月経過した今も、指名がまったく取れない薬剤師は少なくなかった。私、朝倉春香もその一人だ。
「春香、どうして今まで指名とれなかったの? 同期の相田も横松も指名とっているじゃない?」
事務室の壁には、「かかりつけ薬剤師指名件数表」が貼られている。まず、薬局長の尾崎久美子、管理薬剤師の桑原真澄、と、役職者の名前が記載され、その下には入社した順で名前が記載されている。
私の同期は三人いて上から「相田」「朝倉」「横松」の順に名前が並ぶ。
久美子さんの言う通り、相田君も横松さんも名前の右横に赤いシールが貼られていて、指名をとっているのがわかる。私の名前の横にはシールが一枚もない。
「あなた、今月指名とれないと本当にクビよ」
社内規定で指名が取れないとクビになる事は知っている。
「でも、私どうしたら良いかわからなくて」
「春香……」
久美子さんは睨むように私を見つめた。
入社してからの三年間はあっという間だった。
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