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「だからね、借りたアニメはあくまで参考程度にして、『そういうイメージでできた曲なんだな』ってことがわかってくれればいいから」
非オタの北大路にとって、何日もアニメを見るのも、独自の解釈を理解しろというのもきついに違いない。
そう思って言ったのだけれど、無駄に爽やかな笑顔で首を振った。
「いや、せっかく真田が勧めてくれたんだから最後まで見る。それに、こうやってアニメを見れば姫川と話ができるし、漫研の人たちの気持ちが少しわかるかもしれないからな」
「北大路……」
異文化に対してのこの歩み寄り……感心だと言いたいけれど、私は思った。「甘いっ!」と。オタク界の真理は奥深く、簡単に触れた気になってはいけないのだ。
「北大路、あのさ……」
「何の話してるのー?」
漫研部のある特別棟に入ったところで、掃除を終えたサナが追いついてきた。
しまった。またも私は出遅れた。北大路のことを思うなら、絶対に注意しておかなければならないこたがあったのに。
「真田に借りたアニメの話をしていたんだ」
「そうなんだ。何話まで見た?」
「今は十五話まで見たところだ」
「おー、結構見たねー。じゃあ今、施設潜入のところか。それなら……」
漫研部の部室に向かって階段をのぼりながら、サナは熱くなってアニメについて語る。半分ほど見ているし、どうやら本当に楽しんでいるようで、北大路もそれについていけていた。
オタクにとって、好きなものを誰かと分かち合えるのはすごく嬉しいことなのだ。世間の認知度は上がったけれど、オタクは学校という小さな社会の中では未だに陰キャラだ。日陰の者だ。だからこそ、SNSなとではなく、リアルで顔を見て趣味の話ができるのは実はかなり幸せなことなのだと思う。
しかも、目の前で繰り広げられているのは腐女子とイケメンリア充の奇跡的な組み合わせ。サナの友人としても、いちオタクとしても、何だかとっても胸にくる光景だ。
でも、この平和な光景がいつまで続くのだろうと私はずっと不安だった。
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