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僕は雨の日が嫌いだ。
昔は好きだった。だんだんと地面が濡れて黒く染まっていくのも、家の中から斜めに叩きつける雨粒の線を見ているのも、わざと水しぶきを上げながら水たまりを歩くのも、とても好きだった。
そして何より、僕には雨の音が見えた。
雨の中を歩いているとき、傘に当たって跳ね返る水滴の音は黄色。
自分の部屋で布団にくるまりながら聞く、外を吹き荒れる嵐のザーザーという音は青。
急な雨漏りに慌ててコップを持ってきて、その中にたまっていく水滴をじっと見つめているときの音は紫。
静かな街が賑やかな雨音の色彩に包まれ、世界は鮮やかな彩りをもって僕の前に広がる。どんな小さな雨音も見逃さぬように、雨の日はずっと耳をすませていた。
綺麗な色とつんとした水滴の形が好きだった。甘いキャンディドロップに似ていたから、僕はそれに「レインドロップス」と名前をつけた。レインドロップスは僕の知っているものの中で一番綺麗だった。
でも、レインドロップスは僕にしか見えなかった。
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