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──まただ、またあれが無くなっている。
私が、最初にあれを無くしたのは2週間前のことだ。父の形見である万年筆を無くした私は、焦っていた。あれがないと私は…。
カタカタ、というリズミカルな音が静寂に響き渡っている。ふと目の前の文章から視線を外し、椅子の背にもたれかかる。
ギシッという音を耳にしながら窓の外を見ると、遠くの方で住宅街がまるでイルミネーションのような明かりを放っていた。
周りを見ると私の他に、6人の社員達が忙しなく手を動かしている。その内の一人が私に声を掛けた。
「須野瀬さん!この資料、確認お願いしまーす」
「ああ」
私は差し出された書類を受け取り、目を通す。
「須野瀬さん、それ、万年筆ですか?」
私のデスクに置かれていた万年筆を見て、若い事務の女の子が私に質問した。しかし、実際に見たことがないのか、少々訝しげな顔でこちらを見ている。
「ああ、これか。私の父から譲り受けた万年筆だ」
「へぇ~。でも今時めずらしくありません?万年筆持ち歩いてるの。私初めて生で見ましたもん」
やはり実際に見るのは初めてか。
「そうか?」
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