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航は、それからも毎日学校に現れた。
星奈以外は彼の存在に気付いていないようだった。
「家にいると、母さん泣いてるし、父さんも仕事休みがちになってるし。なんかしんどくて」
と言う彼の言葉を、星奈は複雑な想いで聞きながら、それでも航との距離が縮まることが嬉しかった。
「神尾くんって、物とか持てるの?」
ある日、星奈がそんな疑問をぶつけると
「お供えと一緒だよ。受け取ってほしいって願ってくれれば受け取れる。食事だってできる」
と航は自信満々に答えた。
試しに航に差し出したボールペンは、確かに彼の手に渡り、その物自体が”この世の物”ではなくなったようだった。
「何か書いてみて」
と言って紙を渡すと、航はそこに
「もう少し生きたかった」
と書いた。
そして航が置いたペンと紙は、不思議とこちらの世界に帰ってきたようだった。
「生きていたら何がしたかった?」
「そうだな。恋愛とかしてみたかったかな。デートとかさ」
照れたようにそう言った航を見て、星奈は彼に気持ちを伝えることを決意した。
しかし、高3の今まで何度も繰り返された星奈の告白に、航が答えることはただの一度もなかった。
それでも星奈が告白を続けたのは、航にとってここが居場所であってほしいと思ったからだ。
航を必要としている人がここにいる。
そう何度も伝えることで、彼は消えずにずっと傍にいてくれるような気がした。
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