君のいる方向

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「嫌だ……いかないで」 そう言ってもう一度、伸ばした手が航の腕をがっしりと掴んだ時、はっとしたように二人は目を見合わせた。 「掴めた……」 そう言って少しだけ笑顔を見せた星奈とは対照的に、 「まずいよ。星奈、これ以上こっちの世界に近づいたらいけない」 と言って、航はその手をそっと体から離し 「やっぱり……行かなきゃいけないみたいだ。ずいぶんと決断は遅くなったけど……。星奈、楽しい時間をありがとう。しばらくはお別れだね」 と手を振った。 そう言った直後、体がふわりと浮き少しずつ天空に近づいていく航は、星奈が何度呼びかけても、こちらに戻ってくることはなかった。 「方位磁針の指す方向。俺はいつもそこにいる」 そう言った航が、消えた瞬間。 北の空が柔らかな光を放ったような気がした。 それっきり、航が星奈の前に現れることはなかった。
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