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「いい加減、諦めてくれよ。俺だって、星奈にばっかり付き合ってらんないんだよ」
「そっちこそいい加減諦めて、私と付き合うって言ってくれたら良いのに」
日に日に強気になっていく星奈に、航はいつも振り回されているものの、そんな彼女に時たま揺れてしまう瞬間があるのも事実だった。
「なぁ、今日もあれ、持ってるの?」
突如話をそらした航に、星奈は少し不服げな顔をしたものの
「持ってるよ。ほらっ」
と鞄の中からコンパスを取り出した。
くるりとまわった針は、北側を指し示す赤色を航側に向け静かに揺れた。
「珍しいよな。そんなの持ち歩いて」
「これ見てると落ち着くの。お守りみたいなもの」
まだ空はほんのりオレンジ色で、星が見える気配はなかったが、星奈は空を見上げ微笑んだ。
天文学者の父の影響で、星奈は小さい頃から星を見るのが好きだった。
父は、星を観察するためだけに裏山ごと今の自宅を買い取り、よく星奈を連れ天体観測を行った。
最近は、なかなか時間が合わずそれもできなくなったが、星奈は父にもらったコンパスをいつも鞄に忍ばせている。
「今日はよく見えそう。家の裏の山ね、すごく星が綺麗に見えるの」
「……じゃあ、そろそろ帰った方が良いんじゃない?」
「冷たいなー。あっ、航も一緒に来ない?」
「俺はいいよ。邪魔したくないから」
そういうと航は立ち上がり
「じゃあね。あっ今日はごちそうさま」
というと、星奈の方を見ることなく立ち去った。
「また明日!ちゃんと学校来てね!」
そう星奈が声をかけると、航は少しうんざりしたように背中を向けたままうなずき手を振った。
星奈はコンパスを握りしめ、そんな航の背中をじっと見つめていた。
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