君のいる方向

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初めて航のことを意識したのは入学して間もない、高校1年生の春だった。 授業前の休み時間、課題を片付けることに必死だった星奈は、授業中に急激にお手洗いに行きたくなってしまった。 まだ授業は20分ほど残っていたが、入学したてで誰もが様子をうかがうその時期、さすがの星奈でもまだそれを人前で伝えるには羞恥心があった。 「先生」 そう言って、手を挙げたのが隣の席の航だった。 「どうした?」 「具合悪いです。保健室行きたいです」 そう航が伝えると、その先生は 「誰か保健室連れてってやれ」 とすんなりとその主張を受け入れた。 「高井さん、だっけ?お願いしても良いかな?」 「えっ!?私?」 驚く星奈を半ば強引に教室の外に連れ出すと、航は 「お手洗いくらい、普通に言えばいいのに」 と言ってため息をついた。 「何で分かったの?」 「何となく。じゃ、俺、保健室で寝てくるわ」 そう言って星奈と別れると、航は鼻歌を歌いながら保健室へ向かった。 航に助けられたのはその時だけじゃなかった。 体育祭でボールがぶつかりそうになった時、壁になって助けてくれたのも航だった。 でも航は、そのどれもこれも覚えていない。 彼にとってそれはごくごく普通の日常に過ぎなかったからだ。 そんな航の姿に星奈は密かに心惹かれていった。 しかし、それから1年半が経ちようやく告白ができた時、航はあっさり星奈を振った。 それでも星奈は、そこから1年、航以外の男性を好きになることができずにいた。
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