君のいる方向

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君のいる方向

くるくるとまわるコンパスの針が指す方向…。 「北はあっち……風が冷たい。南はあっち……日差しが暖かい」 どうしていつも、私は……。 北を目指してしまうのだろう。 「航、発見!」 放課後、帰宅する生徒たちの喧噪を逆走し、すべての空き教室のドアを開ける。 今日は三つ目の教室で彼を見つけた。 「星奈、お前……執念深さ、半端ねーな」 ため息をついた彼は、鞄を持つと、星奈の存在を無視するように横を通り過ぎていった。 「待ってよ。今日こそ、付き合ってくれる約束でしょ!ラブリーアイスのカップルキャンペーン」 「あのキャンペーンのチラシ、一人でも参加可能って書いてたじゃん。一人で行けよ」 「えーカップルで行くことに意味があるんじゃん」 「俺たちカップルじゃないだろ」 あくびをした後、伸びをしながら航は面倒くさそうに答えた。 足の長い航に歩幅を揃えるのも必死な星奈は、駆け足で彼を通り越し前に立ちはだかった。 「でも約束したよ。16時までに航を見つけたら、一緒にラブリーアイス行ってくれるって。ねっ、おごるから行こうよー!」 スマホに表示された時計を突き出し笑顔を向ける星奈を見て、航はため息をついた。 「お前さ、メンタルどうなってるの?振られた男に普通そんなこと頼むか?」 「ほら、よく言うでしょ。誰かに何かを頼むときは一番難しいことから頼むと良いって。付き合うのが難しいって言うから、アイスくらいなら付き合ってくれるかなって」 あっけらかんと振られた事実を認めるのは、何も、それを気にしていないからではない。 ただ、今はそこをどうこういうタイミングではないと思っただけのことだ。 「分かったよ。お前、このままだと一生ついてきそうで怖いわ。とっとと行って、とっとと帰るぞ」 「やった!」 後ろを振り返ることなく歩き出した航に置いて行かれないよう、星奈は必死で歩調を合わせた。
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