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2つ下の弟が僕と同じだと気づいたのは、僕が5歳の時だった。弟が3歳の時、母に言った一言で、もしかしてと思った。
「ねぇ、お母さん。あの子は、おうちに帰らないの?」
公園のブランコの隣に赤い傘をさして立っている小さな女の子。僕と弟はカッパを来て長靴を履いて傘をクルクル回しながら母の後をついていく。家に帰る通り道。公園の前を通るんだ。開けた公園は入り口からも見通しよく作られていて、奥までよく見える。
僕にもブランコの隣に立っている赤い傘をさした小さな女の子は見えた。
だけど…。
「この雨の中、どこにそんな子がいるの?怖い事、言わないで。」
やっぱり、母には見えていない。僕は弟の手を引っ張って意識をこちらに向かせた。そして、振り向いた弟の傘に自分の傘を重ねるように近づいて、人差し指を口に持っていった。目を丸くした弟も僕の真似をして小さな人差し指を自分の口につけて、しぃぃっとする。声に出したら意味ないのに…。でも弟の声は雨に消されて母の耳には届かなかった。
それから2度、そんな事があって確信に変わった。
僕達兄弟は他の人が見えないものが見える。でも秘密にしている。僕と弟、ふたりだけの秘密だ。
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