第四章 訓練生の一日

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『見ろ、クラウス。子供達が首都に向かうようだ』 「ああ、芽吹きの儀式だな。もう、春が来るんだな……」 列を成して歩いて行くのは、十三歳になったばかりの少年達。十三歳になると、素質のある者は相棒の動物と共に首都に向かい、公主に目通りした後、訓練所に通う事が許される。 道すがら見守っていると、クラウスに気付いた少年達が歓声をあげた。 特に猟犬使いを目指す少年達にとって、狼使いは憧れの存在だ。野生に生きる狼を目にする事はあっても、彼等と心を通わせる事が出来るのは今やクラウスとロルフだけなのだから。 軽く手を振って見送り、クラウスは訓練所へと足を早めた。 「引率にルーク教授が付いてたな」 『ああ。今日の授業が弛まぬか案じられる』 「大丈夫だろう。フェルナンド先生が残っている」 『うむ……。あの小僧も偉くなったものよ』 ルーク教授は元・国立アカデミーの教授で、現在は訓練所の責任者となっている。滅茶苦茶に厳しい事で有名で、名だたる悪童から「クソ玉ねぎ」と呼ばれている。 厳しいが正しく、何事にも妥協を許さぬ姿勢がクラウスは嫌いでは無い。何処か父に似た厳しさだから、慣れたものだ。 訓練所の訓練内容はルーク教授が責任者となるまでは、肉体派一直線な集団だったが、彼の就任と共に古代史を含む学習習慣が倍増。卒業する為には頭も鍛える必要があり、訓練生達は心底、玉ねぎ……もとい、ルーク教授を呪っている。 三ヶ月ごとに実施されるテストをクリア出来なければ進級もままならず、容赦なく落第させられ、何度も落第していると強制退所させられる場合もあるとか。 幸いにもクラウスの学友は誰一人強制退所の憂き目にはあっていない。だが、自主的に辞めて行く者はいる。 入ったばかりの頃は三十余名いた学友も、半分以下の十四名。例年より厳しく絞り込まれている。
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