最終章 二人で歩む道

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 単独で見事に忍びを追いやってくれた謎の男は、火の国で最上の相手への礼儀を示してルーク教授の前に跪いた。 「私はイーシン様の配下、ジエンと申します。許しも得ず侵入し、お騒がせ致しました事、心よりお詫び申し上げます」 「いや。君は最も効率の良いやり方で騒ぎを治めてくれた。そういう事だろう」  僅かに顔を上げたジエンは、直ぐにもう一度深く頭を下げた。 「ご理解頂き、誠にありがとうございます。貴方様はイーシン様の仰る通りの方です」 「私は、軍師殿と面識など無いが」 「合理的思考に情緒が上手く融合した適度な堅物と伺いました」  一緒に聞いていたミゲルが真っ先に吹き出してしまった。 「あ、当たってますよ、教授〜! 教授は堅物ですけど、そこそこ柔軟ですもんね〜! 俺、そういう所好きですよ!」 「黙りなさい。……君を通してイーシン殿に礼を伝えて貰いたい」 「承りました。私を通し、イーシン様より謝罪と礼をお伝え致します」  一通り儀式的なやりとりが済むと、フェルナンドはジエンの側に跪いた。 「私の妻を救って頂き、ありがとうございます」 「いいえ。逆にお礼を申し上げたいのは私の方です。奥様と一緒に居る事で彼は完全に油断していた。その隙をついて先制出来ました」  ジエンは静かに告げると、懐から薬草の詰まった袋を取り出してフェルナンドに手渡してくれた。 「奥様に。煎じて飲むと、咳の症状が和らぎます。担当の薬師にも診て貰って下さい。だいぶお辛い様子でした」 「これは有り難い……」  再度フェルナンドが礼を言おうとすると、「これにてご免」とその姿は幻のように消え失せた。 「はやっ! 見えたか、リカルド」 「ううん。全然見えないけど、多分、 上から帰ったみたいだね」  リカルドは相棒の猫の視線を追って指差した。猫はもう仕事をする気が無いようで、リカルドの指先を突いて遊び始めた。  一先ず、事無きを得た。すっかり、隣国軍師の掌中にあったようだが。 「なぁんか肩透かしですね。俺達だけ、右往左往って言うか」 「軍師イーシン。噂通りの男だと言う事だろう」  天空を統べる神の如き心眼、全てを見通し、あらゆる未来を想定する天空の眼を持つ者。『天眼』の軍師、イーシンの噂に偽りは無いようだ。 「私は、あの子達の方が末恐ろしいですが……」  観客席は煙幕に一時騒然としたが、直ぐに煙幕は消え、変わらず継続していたように見える試合に熱中した。  今もなお、クラウスとフォルクが何事も無かったように白熱した試合を展開している。  二人が試合をしつつも状況を把握した上で、敵をほぼ仕留めたのを隊長一同は知っている。 「見た? フォルクの、精密射撃……すごい」 「それより、クラウスの察知能力だろ! 寒気が走ったぜ、くぅ〜、ロルフ様にどんどん似てくるなぁ、アイツ! すげぇ! 凄過ぎるから、俺の部下には要らないな! 頑張れよ、フェルナンド!」 「丸投げですか……」 「だって俺みたいな? ウツワの小さい男がクラウスみたいなの部下にしたらシットしちゃう訳。その点、フェルナンドは大丈夫だから!」  要約すると、クラウスがいると部隊に必ず嫉妬と羨望にとち狂う者が出来てしまい、まとめるのが面倒だから、と本音が滲み出ている。 「何を根拠に私は大丈夫だと言うのですか……」 「だってフェルちゃんてば部下が成長する方が嬉しくって何でも教えこんじゃうタイプだろ? そのスタンスで部下が育ってるから、全員良い奴ばっかだしさぁ! 先生天職。引退しても先生やったら良いぜ」 「うん……天職。フェルナンドが居てくれると、ホント助かる……ボク、苦手……っていうか、やりたくないし、そんな面倒な事」  フェルナンドは思わず、何時もの何とも言えない顔で笑った。この個性的が過ぎる同僚達は自分の好きな事、得意分野はグイグイ行くクセに、苦手な事は「任せた!」と、とりあえずフェルナンドに丸投げしてくるのだ。  自分の小器用な性質が憎いのだが、フェルナンドは割と何でも器用にこなせてしまう。実は隊長達の中から訓練所の教官を選出する時も「任せた!」で丸投げされて任命を受けたのだ。  まあ、丸投げした分は得意分野でフォローしてくれるし、何時もありがとうと酒場でおごってくれるので、良しとする。  観客席の歓声が一際大きくなる。どうやら、ついに決着がついたようだ。フェルナンドはやはり「任せた!」と丸投げされていた細かい準備を進めるべく、隊長達の席から離れた。
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