最終章 二人で歩む道

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 婚約式に出席する娘達は皆、もう綺麗に着飾って準備を整えている。会食の会場は賓客の華やかなドレスにも負けない白い花のように咲き誇る花嫁達が席を囲んだ。  そして卒業式に出席する訓練生達も、隊員の正装である真っ白な礼服を着ているので、会場は雪が降り積もったように凛とした美しさに包まれていた。  幸いにも席順を決めたのは合理主義のルーク教授なので、賓客と卒業生達の席は上手く離されて妙に緊張することは無い。  だが、クラウスだけは賓客の真っ只中に放り込むように配置されていた。  そして彼の側には、今回の勝負を受けた貴族の娘達が華やかに着飾ってソワソワと席に着いている。  貴族の娘達が身に付けている豪奢なアクセサリーについて花嫁達は盛り上がり、クラウスの心中を慮る花婿達に注意されては唇を突き出して抗議する……華やかな席に相応しい、微笑ましい喧騒だった。  全員が席に着いた所だが、クラウスの隣は空席のままだ。娘達は我先にクラウスの隣を競おうとしたが、 「私はここで、クラウスを苛めながら料理を楽しむわ」 「ゆっくりとお楽しみ下さい。では、話の続きは後程」 「ええ。教授の考察は興味深いわ。又後程話を聞かせてちょうだい」  クラウスの隣にはルーク教授のエスコートで優雅にラアナが腰掛けたので、娘達は小さくなって席に戻るしか無かった。 「お久しぶりね、クラウス。出迎えてもくれないなんて冷たいじゃない?」 「失礼致しました。ホリーの準備を手伝っていたものですから」 「あらそう。私の権威を借りないと大事な人一人守れないなんて、困った殿方ね」 「申し訳まりません。今はラアナ様のお力をお借りします」  ニッコリとラアナが微笑むと、周囲の男女関係無く見惚れてしまったが、一瞬早く立ち直った娘達が隣の夫となる者の膝をつねりあげた。 「ふぅん。今は、ね。ああ、心配だわ。私の可愛いホリーが泣いてしまったら、私……この国ごと滅ぼしてしまうかも。ホリーを泣かせるような国に存在価値なんて無いもの」  クラウスの返答が、土の国の存亡を決める。ハラハラと見守るしか出来ない周囲の人々は軒並み胃を痛めていた。 「お言葉ですが」    クラウスは自信たっぷりに、ロルフに似た微笑みを浮かべた。 「私の、ホリーです。ラアナ様」  気にする所はそこではない、と全員が心で突っ込んだが、ラアナはコロコロと笑っただけだった。 「まあ、狭量な狼王ね。先が思いやられるわ」 「狭量で結構。私の心の狭さは、ホリーへの愛故と思し召し下さい」  仲睦まじい様子に見えてしまうのが恐ろしい。二人を除いた皆の心は一つだった。 『小娘一人では無く、国ごと滅ぼすを全力で阻止して欲しい! 出来るだけ、穏便に!』と。  意外と簡単に国は滅ぼされてしまう上にその運命の鍵が、たった一人の少女の涙とは、命が幾つあっても足りない。  人々は心に大量の冷や汗をかきながら、表面上穏やかに笑い合う二人に合わせて、引きつった笑顔を浮かべた。
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