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次々にテーブルに並ぶ煌びやかな料理にも歓声は上がるが、皆じんわりと体を温めるホリーの料理も楽しんでくれている。
お嫁さん達の給仕をしていたら、そっと袖を引かれて、
「あの……このお料理、私でも作れるかしら……」
「後でレシピを差し上げましょうか?」
「嬉しい! ほら、雪山でお仕事したりするでしょ? あの、体が温まるお料理ってもっとあるかしら」
「わ、私も! 私も教えて、ホリーさん!」
大事な夫となる人の為に一生懸命な気持ちはホリーと一緒。
「それなら、今回のレシピ以外にも良さそうなものを見繕って皆さんにお渡ししますね!」
「ほ、本当に? 嬉しいわ、ありがとう! 今度、お礼に皆でお茶会はどうかしら。ホリーさんをおもてなしするわ!」
「まあ、良いのですか? 嬉しいです!」
「ホリーさん、頑張ってね! 私達みんな、ホリーさんの味方だから!」
「ありがとうございます!」
お嫁さん達は皆、優しくて気持ちの良い人ばかり。ホリーは給仕をしながら、皆とお友達になれて心から嬉しかった。
ホリーの料理は家庭料理だが、土の国では珍しい風の国の家庭料理が多い。
母が沢山のレシピを知っていたからだ。ホリーの得意料理、ポトフもその一つ。
ラアナはポトフに大好物のニンジンが沢山入っている事を子供のように喜んで食べてくれた。そんな友人を見つめながら、ホリーは今更ながら不思議に思う事がある。
(お母さんはどうして、こんなに風の国のレシピを知っているのかしら……)
あの博識なルーク教授ですら、グラタンを知らなかった。家庭料理なのだから、国外に知れる機会が少ないのだ。
確かに、風の国は美食で知られる国なのだが……。
習い始めた時に聞いた話では、母にはこの町の宿屋を経営している親戚がいて、そこの手伝いをしていた際に知り合った風の国の人から教わったと言っていたが……。
(宿に泊まるのだから、迷宮目当ての冒険者よね。冒険者ってほとんど男の人だし、お料理なんて詳しく分からないんじゃ……)
首を傾げるホリーの疑問が全て解き明かされるのは、ほんの少し先の事だった。
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